\ 連載「クイズを味わう」 /
「クイズ」は、物知りな人が解いて答えるだけのもの? いやいや、問題に込められたメッセージや「たくらみ」を見つけるのも、クイズの楽しみ方のひとつ。
毎回1問のクイズを取り上げ、「いいクイズ」「面白いクイズ」の秘密をひもときます。毎週金曜日のお昼に更新予定です!
今回取り上げるクイズはこちら。

クイズを出して答えてもらうという営みは、プレゼント交換に似ているような気がします。クイズを作っている最中は、「どんな人」に答えてもらうかわからない状態であることがほとんどです。なので、どんな人にその問題が届いてほしいか、すなわちどんな人に正解してほしいかということを、クイズを作るときにはよく考えます。
さて、冒頭で紹介した問題は、バスケの審判が「トラベリング」を宣告するときに行う動作を正確に知っている人が有利になるように(=早押しクイズの問題なので、早く押して答えられるように)作られているように思えます。そして、『いとまきのうた』を引き合いに出している点が、すごく特徴的で個性的、に見えます。私はクイズを始めて10年目になりますが、トラベリングをこのように説明している問題は、後にも先にもこれのほかに出会ったことがありません。
▲0:56〜が「トラベリング」を示す動作
では、『いとまきのうた』を登場させている理由は「個性的な問題にしたかったから」なのでしょうか? ほんとうに?
私には、別の理由があるように思えてなりません。
「個性的」の度合いを落とした改題案として、例えばこのような問題文を考えることができそうです。
審判は両手のこぶしを胸の前でぐるぐると回して示す、バスケットボールで、ボールを持ったまま3歩以上歩いた時などに取られる反則は何?
「『いとまきのうた』のように」の部分を「胸の前でぐるぐると」に変えてみました。
このような問題は何度か見たことがあります。なんなら、自分も似たような説明を書いたことがある気すらします。きっと多くの人は、トラベリングのあの動きを説明しようと思うと、見たままの動きをなんとかそのまま言葉で説明できないか、と考えるのだと思います。別にふつうのことです。
しかし、動作と言葉のあいだには「距離」があります。
解答者として「両手のこぶしを胸の前でぐるぐると回す」という説明を聞いたとき、正しい動作を思い浮かべるまでに、いくらか時間を要するように思います。「胸の前でぐるぐると……? ああ、こういうことか」というふうに。もしかすると、間違った動作をイメージしてしまう人も、多くはないものの出てくるかもしれません。私にはこれが、動作と言葉のあいだにある距離が、問題と解答者のあいだにそのまま残されているように思え、なんだかすっきりとしません。胃の中にちょっとだけいらないものが残っていて体が重いような、そんな感覚。
そこで、冒頭の問題です。『いとまきのうた』。小さいころにお父さんやお母さん、幼稚園の先生と歌った、あの手遊びうたです。一緒にやってみましょう。手遊びうたですから、もちろん手も動かしてくださいね。いきますよー、さんはい、「い~と~まきまき、い~と~まきまき……」。
いま、『いとまきのうた』を知っている人なら、全員同じ動作ができたと思います。クイズでも、「『いとまきのうた』のように」と言ってしまえば、バチッと正しい動作を伝えられるわけです。

もちろん、「『いとまきのうた』ってなんだっけ……?」と思い出す時間は必要になりますが、思い出せたときには必ず正しい動作がイメージできているはずです。なぜなら、「い~と~まきまき」の動きは一通りしかないと考えることができるから。もし間違った動作を思い浮かべてしまったなら、それは言葉と動作の距離のせいではなく、単に知識の覚え違い、あるいは思い出し間違いです。
直接的に説明しようとすると「距離感」が残ってしまうのに、間接的にたとえを用いて説明することでその距離感がいくらか解消されるというのは、おもしろい話だなあと思います。
ちなみに、「胸の前でぐるぐると」という説明が劣っている、ということを言いたいわけではありません。動作と言葉の「距離」は残りますが、逆に言えば「正しい動作を思い浮かべられるか」というゲームのための問題、と考えることもできます。正しい動作を思い浮かべられ、その動作と「トラベリング」という答えがつながった瞬間に感じられる気持ちよさは、謎解きをクリアしたときのそれと近いものがあるのではないでしょうか。

ここまで述べたもののほかにも、クイズの出しかた、言葉の使いかたにはさまざまあって、大会などのために用意されるたくさんの問題――クイズ界隈では「問題群」といったりします――は、方向の異なる問題の組み合わせとバランスで、その性格が決まっていきます。この問題が出題された大会(ハイスクールクイズバトル WHAT 2024)では、全部で約550問の問題が準備されていました。その中に1問くらい、『いとまきのうた』のような、間接的に見えて実は直感的、そしてパッと見は個性的に見える問題があってもいい、いやあったほうがいい、と判断されたのだと思います。
その上で私には、「大会」や「勝ち負け」とは関係ない、「クイズ」のもっと根本的な部分にある思いがこもっているように思えてなりません。「トラベリングを宣告する動作って、『いとまきのうた』みたいだ!」と考えたことがある愉快な人に、この問題が届いてほしい、あわよくば面白がってほしいという、そんな思いが。
(文・岸本悠吾)
「WHAT 2026」エントリー募集中!
「ハイスクールクイズバトル WHAT 2026」は、高校生以下の方が参加できるクイズ大会です。
エントリーはこちらから!

大会のルールや楽しみ方などの最新情報は、WHAT公式Xでも更新中! フォローの上、ぜひチェックしてみてくださいね。
「クイズを味わう」は毎週金曜日のお昼に更新予定です。Xのハッシュタグ「#クイズを味わう」で感想をお寄せください。次回もお楽しみに!
【前回の記事はこちら】
【あわせて読みたい】


























