モヤモヤを振り払う、渾身の押し
とはいえ、自分のなかにモヤモヤした感情があったのも事実です。僕は前年ベスト4でリベンジを果たしにきたチームリーダーとして番組の注目を集めるべく振る舞っていました(それが伊沢のシナリオのなかで僕に割り当てられたもうひとつの「役割分担」でした)。ですが、当時のクイズ界の内側にいた人から見たら、クイズの主役は伊沢拓司であって「伊沢ありき」なチームだと認識されていたはずです。いまだから言いますが、僕はひねくれていたので、「お飾りのチームリーダー」として見られているんじゃないか、そんな被害妄想を抱いていたんです(笑)。
「クイズはお前らに任せた」というのは、二人の実力を認める素直な気持ちの表れでもありながら、「役割分担」に安住することで「お飾りのチームリーダー」という被害妄想を誤魔化すための言葉だったのかもしれません。
自分はクイズでの活躍を期待されていないんじゃないか。でもやっぱり、早押しクイズで負けたくない。対戦相手の久留米大附設に対しても、チームメイトの二人に対しても。
そんなモヤモヤを抱えながら臨んだ準々決勝。久留米大附設チームと相対して緊張感が高まるなか、早押しクイズの第1問が読まれました。
「全てを飲み込む範囲とされるブラックホールの半径/」
「半け……」と聞こえた瞬間に動いていたのは、伊沢の指でも、大場の指でもなく、自分の指でした。ゆっくりと落ち着いて、答えを言います。
「シュバルツシルト」。
正解音が鳴り響きました。正式な問題文は「全てを飲み込む範囲とされるブラックホールの半径を定義したドイツの天文学者の名前は何でしょう?」というもの。
対戦相手も、チームメイトも、答えは知っていたかもしれません。それでも、自分の指で最初の正解を掴み取ることができました。自分のことを「お飾りのチームリーダー」だと思っている人たちに「どうだ!」と言いたい気分でした。いや、ただの被害妄想なんですけどね。
無人島、青春のその先に
記事の執筆をしてくれないかと言われて、真っ先に浮かんだ「思い出のクイズ」がこの「シュバルツシルト」でした。3年間クイズをやってきた自分の力を大きな舞台で発揮できた、ウジウジした自分の被害妄想を取っ払うことができた、そういう意味で本当に大きな1問でした。あと、なによりもアンサーの字面がカッコいい!
その後、開成チームは久留米大附設チームと激闘を繰り広げることになります。僕たちはなんとか先に7問を取って、準決勝に駒を進めることができました。自分が正解した問題を数えてみると、チームトップの3問。早押しクイズでしっかりと活躍できたことが、実は一番うれしかった。
▲準決勝進出を決めた瞬間(画像提供:日本テレビ)
それからまたなんやかんやあって、僕たちは決勝戦でQuizKnockライターのソフロレリア氏を擁する浦和高校との激闘を制し、開成高校初の優勝を成し遂げることができました。全国の高校生たちとしのぎを削り、番組の裏では実際のところかなり楽しく交流していたこの夏は、人生の大切な思い出となりました。そして、このときはまだ、伊沢拓司が無人島タレントになることを誰も知りませんでした……。
ここまで、僕の視点で第30回高校生クイズを振り返ってきました。他にも、ここには書ききれない思い出がたくさんあります。おそらく、出場した高校生みんなにそれぞれの「思い出のクイズ」があるでしょう。9月10日に放送を控えた第41回高校生クイズでは、どんな「思い出のクイズ」が生まれるのか。みなさんもぜひ見届けてあげてください。
サムネイル画像提供:日本テレビ
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