日本の大学が上位に入りにくいのはなぜ?
日本の大学は、(メディアが取り上げるほどには)ランキングを意識していない印象があります。受験のときも、世界ランキングを見て志望校を決めた記憶はないですし……。
そうですよね。それは日本に「偏差値 」という、国内で強く通用する物差しがあるからだと思います。
高校生は偏差値で大学を選んで、企業も採用の参考にしてしまう。国内だけで話が完結している んですよ。だから、世界ランキングを取りにいく必要性をあまり感じてこなかったんですね。
世界大学ランキングが世界共通の通貨だとしたら、偏差値は日本国内だけで通用するローカル通貨、みたいなものでしょうか。
そうそう、まさにそんな感じです。
ちなみに政府は2013年に、「今後10年で、世界大学ランキングのトップ100に日本の大学を10校以上 」という目標を掲げています。
でも、QSの最新版で100位以内に入った日本の大学は、東京大、京都大、大阪大、東京科学大の4校なんです。
目標から10年以上たっても、まだ届いていないんですね。
ええ。ただ、日本の大学がダメかというと、まったくそうではなくて。ランキングに表れにくい強み もたくさんあるんです。
たとえば、母国語で最先端の学問ができる こと。2008年にノーベル物理学賞を受賞した益川敏英さんは、受賞記念講演(ノーベルレクチャー)を日本語で行いました。
▲2008年にノーベル物理学賞を受賞した益川敏英さん
多くの国では、最先端の研究をしようとすると英語が欠かせないですからね。
それから、すぐに成果が見えにくい基礎研究にも、じっくり取り組める土壌がある こと。
iPS細胞や青色LEDも、何年もかけた地道な研究の先に生まれたものですよね。
上海ランキングでは東大が世界30位に食い込んでいるようですが、それも積み重ねがあるからなんでしょうか。
私はそう見ています。長い時間をかけた研究の実績が、ちゃんと評価に表れているんですね。
あとは学費。国内では授業料の値上げをめぐってさまざまな議論もありますが、国立大学の授業料の標準額は年53万5800円。海外の名門校と比べると、まだかなり抑えられているんです。
日本の大学の「味」は何?
ここで、最初のミシュランのたとえ話に戻りましょう。日本の大学にとっての「味」 って、何だと思います?
いまのお話からすると、時間をかけた基礎研究でしょうか。
その通り。だからランキングを上げたいからといって、欧米の流行に合わせて、中身を薄めてでもとにかく論文の数を出す……みたいな方向に進むのは、和食のお店がカリフォルニアロールの大量生産に走るようなもの(笑)。味は変えないほうがいい と思うんです。
でも、入り口 は整えていけるといいですよね。海外から来た研究者や学生が、日本語の壁で迷子にならない仕組みです。たとえば、英語で対応できる事務の窓口とか。
沖縄科学技術大学院大学(OIST) は、その一例です。日本語はもちろん、英語だけでも研究や事務が進められる環境になっていて、教員や研究者、学生の半数以上が外国籍なんですよ。
▲沖縄県恩納村にある沖縄科学技術大学院大学(OIST)
和食のお店が、海外から来るお客さんのために英語で説明できるスタッフを置くのと同じですね。
そういうことです。私としては、和食もミシュランの星を取りにいっていいと思うんです。
ただしフレンチの真似をするんじゃなくて、和食の看板を掲げたまま三つ星を取る 。日本の大学も、そんな戦い方ができるんじゃないかなと思っています。
ランキングを無視するのでも、振り回されるのでもなく、自分たちの強みで勝負するということですね。
そうです。もう一歩踏み込むと、日本はルールをつくる側に回る意識 を持ってもいいと思うんですよね。
ランキングは、あくまで誰かが決めた基準です。本当に納得できないなら、自分たちで「これがいい大学だ」という物差しをつくって、世界に示す 道もあったはずで。
韓国やシンガポールの大学は、研究費を集めて、優秀な研究者を呼び込んでいます。20年後、30年後には、そこから人類に大きく貢献する研究が生まれているかもしれません。
そのときに「ランキングなんて」と目を背けているうちに、優秀な研究者が海外に流れてしまっていた……というのは避けたいですよね。独自の道を行くなら、その仕組みを自分たちでつくっていくことも大切なんじゃないかと思います。
数字を追うにしても、独自の道を行くにしても、何もしないままではいられないということですね。
私たちはランキングをどう見ればいい?
最後に、私たちがランキングを見るときのポイントを教えてください。たとえば受験生の親が子どもに「この大学、世界で何位なんだって」と言われたら、どう受け止めるといいでしょう?
まずは、目的に合わせて見るランキングを変える ことですね。
学部の4年間を過ごす大学を選ぶなら、QSが特に参考になると思います。上海ランキングはノーベル賞や論文が中心なので、学部の教育とは比較的関連が薄いんですよ。
研究を重視するなら上海ランキング、その中間がTHE、というイメージです。
「上海ランキングで何位だから」という理由だけで学部を選ぶのは、ちょっとズレている、ということですね。
そういうことです。それから、「自分に合った教育を受けられる大学」と「ランキングの高い大学」は別物 だということ。
大学にとっていちばん大事なのは、やっぱり学生ですから。常連のお客さんが来なくなったら、どんなにミシュランの星がついていてもそのお店はおしまいです。
私みたいに、もう大学を卒業した人がニュースとして楽しむなら、どこを見るといいですか?
順位が急に上がった大学 に注目してみると面白いですよ。
中で新しい取り組みが始まっているのかもしれないし、大きな資金が入っているのかもしれない。「なぜ上がったのか」を調べると、その国の大学政策が見えてくるんです。
順位そのものより、「なぜ動いたか」を見るんですね。それなら、ランキングのニュースもちょっと楽しめそうです。
そうなんです。次に大学ランキングのニュースを見かけたら、まず「どのランキングか 」をチェックしてみてください。
それだけで、見え方がずいぶん変わると思いますよ。
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【画像出典(画像を一部加工しています)】
東京大学 安田講堂:Wikimedia Commons Kakidai CC BY-SA 4.0
京都大学 百周年時計台記念館:Wikimedia Commons KATSURA Roen CC BY 3.0
カリフォルニアロール:Wikimedia Commons Wide Awake! CC BY 4.0
シンガポール国立大学:Wikimedia Commons RFNirmala CC BY 4.0
UCLAロイス・ホール:Wikimedia Commons Beyond My Ken CC BY-SA 4.0
立命館アジア太平洋大学:Wikimedia Commons JKT-c CC BY 3.0
益川敏英さん:Wikimedia Commons 日本学士院ホームページ CC BY 4.0
沖縄科学技術大学院大学:Wikimedia Commons OIST from Onna Village, Japan CC BY 2.0