連載「伊沢拓司の低倍速プレイリスト」
音楽好きの伊沢拓司が、さまざまな楽曲の「ある一部分」に着目してあれこれ言うエッセイ。倍速視聴が浸透しているいま、あえて“ゆっくり”考察と妄想を広げていきます。
どちらのほうが好きということはないのだが、邦画より洋画をより見ている気がする。
高校時代、授業をサボって公開日午前中の『007 スカイフォール』を池袋シネマ・ロサへ見に行った。ダニエル・クレイグの演じる硬派なボンドは、根源的なあこがれを掻き立ててくれる存在だった。東大受験の翌日にはTSUTAYAで『SEVEN』から『ハングオーバー!』までたくさん借りこんで、勉強を頭から引き剥がすべく映像に没頭したものだ。
もちろん、邦画に比べると一見、二見したときの理解度は劣るだろう。文化的背景や細かなジョーク、字幕のニュアンスの違いなどはどうしても壁になる。それでもなお、雰囲気や規模感、シンプルに一本一本の持つ魅力によって、私は洋画に惹かれているのだろう。
でも、願わくば、その背景までガッツリ理解したい、と思っている。情報収集をしたり、劇場公開ものならパンフレットを買ったりして、「あ〜〜そういうことだったのか……」を味わいたいのだ。わからないことも、それがわかることも、同様に楽しい。
そんな洋画の雰囲気と、洋画の持つ謎とを併せ持つ……と私が思っている曲が、フリッパーズ・ギター『恋とマシンガン』である。イタリア映画『黄金の七人』のサントラをサンプリングした印象的なイントロがオシャレで、今もなお様々なメディアで流れている名曲だ。個人的にはTBS『あさチャン!』のイメージが強い。
そこまで人口に
頭からお尻まで、しっかり難解なのだが、諦めたくなるほどに難易度を高めているのは、終盤に登場するこのフレーズであろう。
冷蔵庫のドアになら 非常ベルが鳴り出す前に
時間かけて バター塗るさ もっと素直に僕が笑えるから
フリッパーズ・ギター『恋とマシンガン』(作詞:DOUBLE KNOCKOUT CORPORATION)
わからん!! めっちゃわからん!!!!
なんだこれは。めちゃくちゃ迷惑じゃん。ダメだよバターを冷蔵庫に塗っちゃ。しかもそれで素直に笑えるって、疲れすぎだよ日常に!
一体全体なんでこんなことをしているのだろうか。さすがに、なにかしら理由があるはずだ。イケてるトラックにイケてるボーカル、イケてる雰囲気の歌詞なのだから、ここを解き明かすことでより一層イケてる楽しみ方ができるはずである。
歌詞の主人公を要らぬ誤解から救うべく、その内容を掘り下げていきたい。
難解な歌詞を切り分けて考える
理解を進めていく上でまず大変なのは、歌詞全体で難易度が高いがゆえにそもそもとっかかりがないことである。時系列が入り乱れ、場面転換も多い。書かれていないことを丁寧に読み取っていかないと、考えがあっちゃこっちゃ行ってしまうのだ。
まずは方法論から入ろう。この曲を読み解くうえでは、「昼と夜」という二項対立を導入するとわかりやすい。
真夜中のマシンガンで 君のハートも撃ち抜けるさ
走る僕ら 回るカメラ もっと素直に僕が喋れるなら
フリッパーズ・ギター『恋とマシンガン』(作詞:DOUBLE KNOCKOUT CORPORATION)
帽子の頭文字から 部屋番号を探しだした
笑う僕ら キザな言葉 もっと素直に僕が喋れるなら
フリッパーズ・ギター『恋とマシンガン』(作詞:DOUBLE KNOCKOUT CORPORATION)
主人公は、おそらく映画スターのような仕事をしており、昼の間は忙しい。撮影のせいかホテル暮らしをしているようで、彼がホテルにいる時間=「夜」の時間が、より彼の「素」らしきものとして描かれている。彼はたぶん、共演者である女優の部屋番号を帽子の頭文字から突き止め(大方フロントに「このイニシャルの人にお届け物をしたいんですが……」みたいなことを言ったのだろう)、いい感じの関係になっているのだ。それが、「夜」の場面で描かれる出来事である。
「昼と夜」は「オンとオフ」に読み替えてもよいだろう。この歌詞に出てくる場面は、ほとんどどちらかに分類可能だ。歌詞を見ながら比較してもらうとよりわかりやすいが、カンタンに登場するワードや行動を一覧化してみる。
なお、少し検討が必要な要素もある。「本当のこと 隠したくて 嘘をついた 出まかせ並べた やけくその引用句なんて!」あたりは、どうにも分類が難しいが、撮影はきっと思ってもないことを言っているはずなので、これは「夜」に分類すべきなのではと思う。