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連載「伊沢拓司の低倍速プレイリスト
音楽好きの伊沢拓司が、さまざまな楽曲の「ある一部分」に着目してあれこれ言うエッセイ。倍速視聴が浸透しているいま、あえて“ゆっくり”考察と妄想を広げていきます。

私が出演している『東大王』(TBS系)も、今年で7年目。クイズ番組として十分な長寿だ。エンタメ戦国時代にあっては常に変化が求められ、番組はこの4月から視聴者参加型に舵を切った。

視聴者のテレビ出演は今でこそ減ったが、日本初のクイズ番組『話の泉』(1946~1964年度放送)がそうであったように、戦後しばらくのテレビ・ラジオは視聴者参加に支えられていた。今以上に「放送」が貴重な時代、人々は非日常を追い求めて番組へと参加したのだ。

そんななかに、未だ往時の形で続いている「最長老」がいる。

『NHKのど自慢』である。

『NHKのど自慢』を攻略できるたったひとつの曲

ラジオ版の放送開始は終戦間もない1946年1月。テレビ放送開始とともにそちらへも籍を移すと、今現在まで毎週、日本各地で収録が行われている。

▲70年以上続く歴史ある番組である

日曜のお昼時、頑張って歌うどこかの誰かを「これは合格でしょう」「いや〜どうだろうな」なんて言いながら眺める平穏。一番までしか歌えないこともあり、小気味よいテンポで番組は進む。凡庸ながらも尊い時間が、そこには流れている。

一方で、「非日常」を味わった出演経験者は意外と少ない。週に18組しか出場できないので、年50回放送があるとしても出場者は年900人ほど。ましてや合格者など、そうはお目にかかれない存在だ。

となると話は早い。おらが街にのど自慢さ来たときのため、今すぐ合格に向けた練習をするべきであろう

幸いなことに、私はのど自慢で勝つために最適な曲を知っている。運命の時まで、この曲だけを練習すれば良いのだ。

そんなディスティニーソングとは、一体何か?

DJ OZMA『アゲ♂アゲ♂EVERY☆騎士』である。

まだチャンネルは変えないで

うら若き乙女たちは知らないかもしれないが、DJ OZMAとは氣志團の綾小路翔が用いた別名義である。K-POPブーム以前の2000年代後半に、韓国流行ポップスの日本語詞カバーという先駆的なスタイルで、ヒットチャートを賑わせた存在だ。

そして、それ以上に人々の記憶に残っているのは、この曲が物議を醸した2006年の紅白歌合戦だろう。本人やダンサーの着ていたボディスーツが裸を模したもので、抗議が殺到したのだ。NHKにとっては、因縁の一曲である。

さて、目指す舞台は同じくNHKの「のど自慢」。一見して相性は最悪だ

しかし、心配は御無用。合格に向けた最善手が、歌詞に仕込まれているのである。

一発逆転、審査員の心に刺さるグッとフレーズこそが、この一節だ!!!

派手に鳴らそう 小粋なチューブラーベル

DJ OZMA『アゲ♂アゲ♂EVERY☆騎士』(作詞:REYAN GEORGE・DJ OZMA)

こんな事言われたら鳴らすしかないじゃない。チューブラーベルを。

……一応補足しよう。チューブラーベルとは、のど自慢で鳴らされる、合否を告げるあの鐘である。

▲長い金属の筒(チューブ)を並べたあの楽器

不合格の場合は1回もしくは2回、合格の場合は11回鳴らされるあのチューブラーベル。どちらが「派手」かは議論の余地がない。

21年間奏者を務めた秋山気清きせいさんがこの3月でご勇退されたため、現在は各地の打楽器奏者が交代で鐘を鳴らしている。不慣れな仕事の中、「小粋な」なんて褒められたら……それはもう合格間違いなしだ

※あくまで伊沢の「考察」です

……いやいやいやいや。なにも、のど自慢に向いている理由はこれだけではない。もっと……もっとあるのだ!

なんとこの曲は、NHK側が合格させたくなる仕掛けを巧妙に仕込んでいる。すなわち、並々ならぬ「のど自慢への思い」が、リリックに隠されているのである……!

たとえば「俺ら最高さGoing」の部分だ。

これは無論、日曜夜に日本テレビ(日テレ)で放送される『Going!』に対しての牽制である。昼の人気番組から夜の人気番組へ、「俺ら『のど自慢』は最高さ、お前らはちゃんとやれんのかよ?」という思いを代弁するためにこの一節は存在する。

▲そんな煽られても「Going」側もどんな顔すればいいかわからない

テレビ始まってのライバルゆえ、日テレへの意識は強い。その直前にある「人生はアッという間」は、発売当時の人気番組『いつみても波瀾万丈』を暗に否定したものだろう。抱え込んだ公共放送の情念が、この曲で発散されるのである。

止まらない「いらぬ深読み」

もちろん、『アゲ♂アゲ♂EVERY☆騎士』には否定だけでなく他局から学ぶ姿勢も見て取れる。

Bメロ頭の「ハイヨー!」は、日曜の競馬番組に着想を得たものだろう。午後のメインレースを待ち望む大衆に「俺んとこ(NHK)こないか?」と語りかけているのだ。

実際、DJ OZMAの次のシングル『純情〜スンジョン〜』ではイントロに馬のいななきが取り入れられている。うまズキたちをNHKに誘導する作戦は成功したのであろう。

▲競馬ファンを包むこむ懐の深さがNHKにはある

そして代弁は苛烈さを増していく。NHKが面と向かって言いづらいような、ライバルたちへの「みかじめ」要求まで飛び出すのである……!

出鱈目 生真面目 みかじめ希ボンヌ Yeah Baby! (Yeah Baby!)

DJ OZMA『アゲ♂アゲ♂EVERY☆騎士』(作詞:REYAN GEORGE・DJ OZMA)

メッセージを読み解く鍵は、曲中で連呼される「チュー」と「出鱈目」にある。これはすなわち、シングル『でたらめな歌』をヒットさせた爆笑問題扮するユニット「爆チュー問題」を意識したものだ。『アゲ♂アゲ♂〜』発売の2ヵ月後、CSフジにて日曜日の番組を始めた彼らに、ショバ荒らしへのみかじめを希ボンヌしているのである。恐ろしい……!

そんな発想に至る伊沢の方が恐ろしい

「のど自慢」側の意図を汲み、彼らの望みを叶えられる曲。それが『アゲ♂アゲ♂EVERY☆騎士』なのである。

こうまでしてNHKに配慮し、のど自慢を賛美した曲を私は他に知らない。ひとつひとつが審査員へのメッセージ。裏にいるプロデューサーとも「マブダチ」になること間違いなしである。

こうなれば間違いない、ベストな選曲はこれで決まった。今すぐこの曲を練習しようじゃあないか!!

……カラオケ中、この理論が持つ、たったひとつの欠陥にあなたは出会うはずだ。

「小粋なチューブラーベル」は、二番で登場するのである。

▲鐘、1回です


伊沢拓司の低倍速プレイリスト」は伊沢に余程のことがない限り毎週木曜日に公開します。Twitterのハッシュタグ「#伊沢拓司の低倍速プレイリスト」で感想をお寄せください。次回もお楽しみに。

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この記事を書いた人

伊沢拓司

QuizKnockCEO、発起人/東大経済学部卒、大学院中退。「クイズで知った面白い事」「クイズで出会った面白い人」をもっと広げたい! と思いスタートしました。高校生クイズ2連覇という肩書で、有難いことにテレビ等への出演機会を頂いてます。記事は「丁寧でカルトだが親しめる」が目標です。

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