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こんにちは、豊岡です。

さて今回は「東大生の本棚」コーナーを担当せよ、とのお達しをいただいたのですが、ちょっと困りました。

私が本を読んでいないからではありません。読む本のタイプこそ移り変わりましたが、昔から読書量は多い方です。むしろ際限なく本の世界にのめりこんでしまう癖のせいで、日常生活のマスト事項が後回しになってしまうことしばしばです。

しかし私は既に、【読書録】と称した記事を、QuizKnock初期にいくつか書いてしまっています。そこで紹介した本たちは脳内図書ランキングの上位に入るものばかりなのですが、さすがに同じ内容を繰り返すのはダメでしょう。また、固い本ばかり紹介しすぎた反省もあります。

以上の事情がきっかけで、今回は脳内図書ランキング順の紹介をやめることにしました。そして、自分の読んできた本のジャンルを大きく4つに分け、それぞれのジャンルを代表し、かつ筆致が固苦しくない本を選びました。ではどうぞ。

『北の海』井上靖

1つ目のジャンルは「古めの日本の小説」です。

明治生まれの作家・井上靖は、自伝的小説を3部書いています。幼少期を描く『しろばんば』、静岡県の沼津での旧制中学(現在の高校)時代を描く『夏草冬濤(なつくさふゆなみ)』、浪人時代を描く『北の海』です。

一般的に評価が最も高く有名なのは『しろばんば』ですが、私は『北の海』が一番好きです。前2作品を読まずともOKです。

主人公の洪作(こうさく)は、幼少時から親元を離れ、家庭の雰囲気を知らずに育ってきた青年です。周囲から「何も考えずにスイスイ飛んでいるトンボのよう」と評されるひょうひょうとした性格です。

洪作は旧制高校(現在の大学)受験に失敗し、卒業後も中学時代の下宿に残留していました。「両親がいる台湾に行って受験に専念すべきだ」という周囲からの声をかわしながら、勉強に身が入らず、OBとなった中学の柔道部に顔を出す、のんびりした生活を続けていました。

そんなある日、柔道部に臨時コーチとしてやってきたのが、旧制四高(現在の金沢大学)の柔道部員。彼の「練習量が全てを決定する柔道」というストイックすぎるスローガンに魅力を感じた洪作は、台湾へ向かう前提で送別会が開かれた直後なのに、突如として縁もゆかりもない金沢へ一人旅立ちます。四高柔道部に期間限定で体験入部した洪作を待っていたのは、実に強烈なキャラクターばかりの部員たちのやんちゃな暮らしぶりと、日本海を背景に広がる雄大な砂丘であった……という青春物語です。

この小説の見所は、洪作の自由奔放な行動が予測不能、未知の魅力的な世界が目の前に開ける高揚感など、いくつかあります。

しかし中でも一番なのは、個性豊かな登場人物たちが洪作にあきれつつも繰り出す、ウィットとユーモアに富んだ会話でしょう。特に、洪作の後見人になってしまう皮肉屋の教師・宇田の発するセリフは、つい思い出して笑うことが多く、何度読み返しても飽きなかったものです。

最近は、私がこの本を希望にあふれていた高校生時代に読んだからこそ、はまったのかもしれないと考えることもあります。今もう一度熟読したら、むしろ寂寥感を覚えてしまうのでしょうか?

『未踏の大洞窟へ』櫻井進嗣

2つ目のジャンルは「冒険・探検」です。

山口県の秋芳洞は、日本最大級の鍾乳洞ですが、実は観光客に公開されているのはほんの一部です。その先にも曲がりくねった洞窟が、時には完全に水没し、時には大きめの空間を形作りながら、奧へ奧へと続いています。そして一番奥がどうなっているのか、確かめた人間は誰もいません。

この本は、秋芳洞の探検に熱中する著者・櫻井氏の探検記です。櫻井氏は、洞窟の中を流れる地底の川へと潜水して、秋芳洞の最深部へたどり着こうとするのです。

洞窟でのダイビングは、暗くて狭く、水が濁りやすく、道に迷ったら一貫の終わりと、とにかく命がけ。想像するだけで背筋が凍るのは、洞窟の中は水で満たされていて「水面」が存在しないので、仮にトラブルがあっても浮上して空気を吸うのは不可能という事実です。

さらに洞窟探検は、登山や航海に比べて「マイナー」「地味」とされる分野ですから、成功しても社会的に賞賛が集まるわけではありません。

しかし櫻井氏は、大学卒業後も就職せずにアルバイトを続けたり、最良のパートナーであった女性と別れたり、精神的にボロボロになったりと大変な目に遭いながら、それでも洞窟の奧からの「呼び声」に引き寄せられ、探検にのめり込みます。

文章に過度に感傷的な部分があり、それ故に嫌う人もいるかもしれませんが、もがき苦しみながら奮闘する櫻井氏の壮絶な半生と、奥深く真っ暗な大洞窟での探検とが、高精度でシンクロして見えてきます。

ちなみにこの本は、私が秋芳洞に実際に観光に行った際、店頭で思わず没頭してしまい手に入れた本です。著者や出版社のネームバリューがなくても、面白い書籍は存在するということを教えてくれた点でも印象深いです。

残り2つのジャンルは「スポーツ」と「学問」です。 

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この記事を書いた人

豊岡

東大クイズ研究会OBのライターです。日本なら福岡ソフトバンクホークス、アメリカならオークランド・アスレティックスのファンです。日常生活では誰にしゃべっていいのか分からずお蔵入りになるタイプの感動を、少しでも記事に落とし込んでいけたらと思います。よろしくお願いします。

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