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「経営破たん」と「倒産」
僕はここまで、「経営破綻」という言葉を主に使ってきましたが、「倒産」との違いは何でしょうか。
会社の借金(債務)が重なって、事業が立ち行かなくなった状況を「経営破綻」といいます。さらに、銀行から取引を断られるなど、「経営破綻」の中でもいくつかの特定の状況に陥ったものが「倒産」です。
つまり、経営破綻のほうが倒産よりも広い意味ということです。
これらはどちらも法律には定義がない用語ですが、実際の手続きで立ち行かなくなった会社を扱うときには「倒産」がよく用いられますね。
そして、「倒産」はその中でさらに「破産」「民事再生」「会社更生」といった手続きに分かれています。
「ではこれらの違いは何なのか」というのが本題でしたね。
破産とは
破産手続では、完全にやり繰りのいかなくなった会社の持つ財産をお金に換え、債権者(お金を貸していた人や銀行)に可能な限り配当します。私たちが「倒産」や「自己破産」と聞いてイメージする一番基本的なものですね。
このとき、借金の免除は基本的に会社自体が消滅が前提になっています。
つまり、会社の全財産でもって借金を返して、それでも残った債務が帳消しになるのと引き換えに会社がなくなるということです。破産した会社からすれば散々ですが、お金を貸していた「債権者」からすればある程度の資金をちゃんと回収できそうな仕組みです。
先ほどの問題では、鳥取県の「やよいデパート」の破産手続を紹介しましたが、このときお店も閉店していました。つまり、会社がなくなっているわけですね。
しかし、もし経営者が会社の借金時の保証人になっていた場合には、債務は保証人に転嫁されますから、それによって借金が増え、経営者個人が破産しなくてはならない、という事態はあり得ます。
民事再生とは
民事再生では、危なくなった会社が確実に債務を返済できそうなプランを作成します。このとき、プランは債権者や裁判所のチェックが入り、その後しばらくの間は絶対にプランに従わなければなりません(無断で新たな借金を作ったりできない、ということです)。
民事再生の申し立ては、「破産しかない」というほど状況がひどくなる前に行うことができます。「まだ頑張れば何とかなる」状態での手続きだからこそ、再生できるのですね。
今回、経営破綻した「ニュートンプレス」は民事再生を選びました。ということはつまり、会社を再建して存続させる気があることを表しています。
実際、ニュートンプレスの代表取締役や会社自体からのコメントは、「雑誌は毎月発行を続ける」「雑誌の存続が当社の使命」などと前向きですから、ぜひとも応援していきたいですね。
会社更生とは~民事再生との違い~
会社更生でも、破産しかないラインに達する前に、民事再生と同様に返済プランを作って、それに従わなければなりません。
では、民事再生と会社更生ではどこが違うのでしょうか。
経営陣の進退と返済プランの作成者
1つ目に、民事再生では、それ以前の経営陣が続投することができ、返済プランの作成も会社の関係者が行うことができます。
それに対して、会社更生では基本的に経営陣は一新され、返済プランも外部の専門家が作成します。
これだけ見ていると、どの企業も経営陣が続投できる民事再生を選べばいいじゃないか、というお話になってしまいますね。さらなる違いを見てみましょう。
会社の財産がどのくらい残るか
借金をするときには何かしらの財産を担保に入れますね。
民事再生では原則、その会社が債務を返済できなかった債権者に対して、担保に指定していた財産(例:土地や建物)の競売を申し立てる権利が与えられます。
一方で会社更生では、この競売権が債権者のものではないため、債権者自ら競売を申し立てることはできません。
会社の形態をどこまで変えられるか
会社が合併されたり事業を再編するには、「会社法」で決められた「株主総会の同意」などの別の手続きが必要です。しかし、会社更生の場合は、「会社法」で決められた手続きなくして事業再編や合併が可能です。
まとめると、民事再生では「身内の権利を守る代わりに、会社の再建のための手段が減る」、会社更生では「会社の身内の意見を締め出す代わりに、より確実に会社自体を再建できる」という具合です。
会社更生によって再建した会社として、最近で一番有名な例は日本航空でしょう。
JALは2010年に経営破綻すると1月に会社更生法の適用を申し立てました。調べると、翌2月には確かに代表取締役社長・会長らが交代し、新経営陣が発足していました。
「会社更生」は、民事再生と比べて強力な再建手段なので、債務に関する権利関係が複雑な会社や、大きな株式会社がよく選択する傾向にあります。
まとめ
各用語の違い、掴んでいただけたでしょうか。
実はこれ以外にも、借金の貸方と借方が直接話し合う「私的整理」や、株式会社が解散したうえで手続する「特別清算」などの手続きもあります。最近ではパナソニックの子会社「パナソニックプラズマディスプレイ」が「特別清算」の手続きをしたりしているんですが、ニュースで耳にすることは少ないのでここでの紹介にとどめましょう。
倒産処理のなかでも、「破産」が債権者の資金回収を重視しているとするなら、「民事再生」や「会社更生」はその後の会社の再建をより重視した手続きであることは、ぜひ覚えておいてくださいね。
日本の継続的な不景気や、世界的な「イノベーション」の加速などで、世代を超えて売れ続けたり、ヒット商品を生み続けることが難しくなっています。
新しい企業が次々生まれては主役になっていきますが、1つのヒントとして「倒産する企業」にも注目してみると、見えてくるトレンドもあるのかもしれません。