ジブリ映画好きライターの栞です。
ジブリ映画といえば、『千と千尋の神隠し』は言わずと知れた名作です。千尋が涙ながらにおにぎりを食べるシーンや、千尋とハクが空を飛ぶシーンなど、さまざまな名場面がありますよね。
▲おにぎりを食べる千尋(画像出典:スタジオジブリ)
そんな数ある名場面のなかで、最も私の印象に残っているのは、湯婆婆が千尋の名前を奪うシーンです。
千尋が湯婆婆の下で働くために契約を交わして、文書に署名をします。このシーンで湯婆婆が発した有名なセリフがこちら。
(画像出典:スタジオジブリ)
「贅沢な名だね。今からお前の名前は千だ!」
こうして湯婆婆は千尋の名前を「千」に変えてしまうのですが……
ちょっと待った
いやいやいや、「贅沢な名」の基準もわからず、名前を勝手に決められたらたまったものじゃありません。そもそも、名前ってこんなに簡単に変更してもいいのでしょうか?
というわけで、今回は千尋を事例として、実際に名前を変更するための条件や方法についてご紹介します。
改名には裁判所の許可が必要
実は、日本で戸籍の名前を変更する場合、家庭裁判所の許可を得る必要があります。
第百七条の二 正当な事由によつて名を変更しようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。
つまり、いくら湯婆婆であっても人の名前を勝手に変えることはできません。もし千尋が法律に詳しければ、正当に手続きを進めるよう湯婆婆に言い返せたはずです。
もし千尋が法律に詳しかったなら
私は15歳未満だけど、法定代理人になって手続きしてくれるの?
名前の変更に必要なモノ
では、具体的に戸籍の名前を変更する方法を確認しましょう。
最高裁判所によると、戸籍の名前を変更するには、申立人が家庭裁判所に申請をする必要があります。この申立人とは、名の変更をしようとする者のことで、15歳未満の場合は法定代理人が代理をしなければなりません。
申立先は、申立人の住所地の家庭裁判所になります。また、申立ての費用や戸籍謄本などもそろえる必要があります。
▲さまざまな準備が必要
これらの手続きを行った上で、家庭裁判所から許可が降りた場合のみ、役場で氏名を変更することができます。
千尋と湯婆婆、いざ裁判所へ
戸籍の名前を変える手続き方法がわかったところで、今回の事例を確認してみましょう。
千尋は10歳であるため、申告人となる法定代理人が必要です。親権者がいる場合には、親権者が法定代理人となります。しかし、千尋の両親は「豚」になってしまっているため、今回は湯婆婆に代わりを務めてもらいましょう。ということで、申立人(代理)は湯婆婆です。
▲申立人・千尋と法定代理人・湯婆婆(画像出典:スタジオジブリ)
申立先は「申立人の住所地の家庭裁判所」。湯婆婆が営む「
申立てに必要な費用は、湯婆婆ならすぐに用意できそうですね。あとは申立書と千尋の戸籍謄本を入手して……。準備は万全、これで家庭裁判所に行くことができそうです。
「贅沢な名」は正当な事由か?
先ほど戸籍法の引用で紹介した通り、改名の手続きにあたっては、家庭裁判所で認められるような「正当な事由」があるのが前提です。
では、名前を変える理由として、「贅沢な名であること」という湯婆婆の主張は通用するのでしょうか?
家庭裁判所によれば、「正当な事由」とは、名の変更をしないとその人の社会生活において支障を来す場合だということです。そのため、単なる個人的趣味、感情、信仰上の希望等のみでは足りないとされています。
「贅沢な名であること」は単なる個人的趣味に該当すると考えられます。まして当事者の趣味ではなく、湯婆婆(=他人)が押しつけた名前なので、「正当な事由」として認められるとは考え難いですね。
これまでに現実で改名が認められた事例としては、以下のようなものがあります。
- 漢字の字体を変更する場合
- 身近に同姓同名の人がいる場合
- 僧侶として長年活動している場合
過去の事例から考えても、「贅沢な名であること」を理由に名前を変更することは難しいでしょう。
結論:「千尋」から「千」に改名するのは難しい
どうやら、千尋と湯婆婆が家庭裁判所に出向いたところで、改名は認められなさそうです。
よくよく考えると、大繁盛している湯屋を経営している湯婆婆は大忙し。家庭裁判所へ行くように説得すること自体、難しいのではないでしょうか。ものを申した時点で、千尋も親と同じように豚へ変えられてしまう可能性もあります。
千尋が法律に詳しかったとしても、湯婆婆に抗議をしなかったのは賢明な判断だったかもしれません。
▲法律を説明している場合ではない(画像出典:スタジオジブリ)
実際に改名手続きをする人は多くないかもしれませんが、法律の知識はいつ役に立つかわかりません。覚えていて損することはありませんよ!
サムネイル画像出典:スタジオジブリ
アイコン画像出典:湯婆婆 via スタジオジブリ、千尋 via スタジオジブリ(一部をトリミングしています)
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