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※この記事には大量の専門用語と偏愛が含まれます。


みなさまお集まりいただきありがとうございます。千春です。

私は高専から大学院まで、10年近く化学を専攻してきました。大学院で研究する日々のなかで、さまざまな化合物たちに出会います。みんな個性があって素敵なのですが、そのなかでも特に心惹かれる化合物がいるのです。

※化合物:2種類以上の元素からなる物質。この世のほとんどは化合物でできているんだぞ!

この感覚、化学をたしなむ方ならわかってくれるはず……! そこで私がかねてより夢に見ていた、化学系ライターによる化学系ライターのための推し化合物プレゼン大会を開催します!

というわけで、QuizKnockの化学系ライターを集めました!

本企画の趣旨はただひとつ。

「みんなで推しを語り合いたい!!」

そこで、今回はプレビューのみなさんに「推し」の化合物を1つずつ紹介してもらい、それについてみんなで語っていきたいと思います。

※熱い化学談義に花が咲きすぎてしまったため、本企画は4本に分けてお届けします。

千春の推し化合物「コランニュレン」

トップバッターは、主催者の私が務めますね。

私が紹介したいのはコランニュレンという化合物です。出会いは高専のときでした。図書館で借りた化学系のコラム本に出てきたんですよ、このお花のかたちの化合物が。まず見た目がかわいくて惹かれました。

その本は化学の歴史みたいなことが書いてある本だったんですけど、古くから化学分野ではベンゼン環が注目されていたみたいなんですね。

やっぱベンゼンっていいよな!

次に化学者たちは、「ベンゼン環を並べてみよう」という研究をしたそうです。そこで誕生したのが、このコランニュレンなんですね。

ベンゼンを輪っかみたいに5つ並べて、その真ん中に五角形を入れます。するとこのように歪んで、お皿みたいな形になるわけです。これをたくさん繋げていくと、高校化学でもお馴染みのC60フラーレンになります。現在ではフラーレンは化粧品や半導体なんかに必須の化合物ですけど、それの先駆けとなったコランニュレンは、テクノロジー的な面でもかなり貢献しているんですよね。

ここから私の「コランニュレン推しポイント」です!

まず見た目がかわいいですよね、お花みたいで。

ヘリセンのお友達かぁ。

※ヘリセン:六角形がらせん状につながった化合物

コランニュレンはお皿の形をしてるんですけど、傘がひっくり返るみたいにペコペコ反転を繰り返しているらしいんですよ。ちょっと想像してみてください、めちゃくちゃかわいくないですか?

なるほど、ミクロの世界で動いていると。

そうそう。ペコペコって。かわいくて一目惚れしたんですよ。でもこれよりもっと大好きな推しポイントがあります。

▲ここまでの推しポイントのまとめ

コランニュレンは1966年にミシガン大学のRichard G. Lawton(リチャード・G・ロートン)博士らのグループが合成に成功しました。

このときに名前をつけるのに「心臓」を表すラテン語の「cor(コル)」と、二重結合と単結合が交互に繋がった「annulene(アヌレン)」構造の名前をつなげて名付けられたといわれているんです。corは「心臓」の他にも「中心」という意味でも使われるらしいんですけど、中心に五角形を入れたという特徴を強調するために「cor(コル)」を頭につけたそうです。

「コル・カロリ」の「コル」だ。

「コル・カロリ」?

りょうけん座の星の名前ですね。

α星で「コル・カロリ」というのがあって、「チャールズの心臓」という意味なんですけど。

へー、それはきっと同じ由来ですね!

でもね、私その名付けの由来を本で読んで「ん?」って思ったんですよ。「コル」と「アヌレン」だったら「コラニュレン」になりそうじゃないですか? 突然「ン」が入って「コランニュレン」になったのにすごく違和感があって。

言われてみればそうだ。

ちょっと調べてみたら、この発明者のロートン先生が名前をつけるときに、妻の名前「Ann(アン)」をこっそり隠したというウラ話があったんですよ! これ本当に強調したいんですけど、ああ、愛が溢れすぎてどうしよう……。普通、自分の発明品って自分の名前つけるじゃないですか!

たしかに……?

千春さんが悶絶している(笑)。

だって自分の名前をつけないで妻の名前を入れたんですよ! これちょっと愛が深すぎて、本当に尊い。

そしてね、私は思ったんですけど、このロートン夫婦の愛の結晶であるコランニュレンは現在のテクノロジーにも生き続けているし、この「妻の名前を入れた」というエピソードも語り継がれてるわけですよ、何十年も経った現代に。なのでこれからもきっと語り継がれるであろうと私は思っていて。これが、これが本当の「永遠の愛」じゃないかって!

ちょっと考えてみてくださいよ、化学で永遠の愛を実現できると思った人います?

なるほど、たしかにそうね(笑)。

愛する人の名前を残すことで永遠の愛を表現したっていうのか……。

愛という形のないものを永遠にできる手段を、それも化学で手に入れたのかと思うとね、これはもうすっごいなと思って。

大体の化合物は劣化するしな。

そういう寿命的な話じゃないんですけど(笑)。

 

もう……趣のないことを(笑)。

とにかく私は、これこそが本当の「永遠の愛」の姿だと思うんですよ! ね、ロートン教授のハートがこもった化合物だと思うと非常に尊いです。ということで我々化学を嗜む人間は、コランニュレンに込められた愛を後世に伝えていかなければならないと思うのです。

なるほど。

フラーレンは高校で習うと思うんですけど、フラーレンの原点のひとつであるコランニュレンはあんまり着目されないんですよね。もしかするとすごくマイナーな化合物を選んでしまったかもしれません。でもね、永遠の愛の姿をみんなに伝えたかった、これが言いたくてこの会を開いたんですからね!

ちゃんと伝わりましたよ(笑)。

いやでも確かに、名前がその二人が亡くなった後も残り続けるというのはすごいよね。

ロマンティックだなと思いますね。

僕もやろうかな?(笑)

以上で私の推し活はおしまいです!

熱量がすごかった!(笑)


次回は、チャンイケの推し化合物「ベンゼン」編をお届けします。ベンゼンは化学界のイーブイ? おたのしみに!

【チャンイケ回はこちら】

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この記事を書いた人

千春

東北大学大学院で化学を専攻しています。読書や料理が好き。 「日常的なことを化学的に」をモットーに、毎日がちょっとだけ楽しくなるような記事をお届けします!

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