球場のビールはうましなんでもない日のはずだったサラダ記念日
――俵万智/『ユリイカ』2016年8月号
はじめまして。新しくライターになった青松輝(あおまつ・あきら)といいます。東京大学理科三類2年生です。ふだんはTQC(東京大学クイズ研究会)に所属してクイズをやっているのですが、クイズの他に東京大学Q短歌会という短歌のサークルに所属して短歌をやっています。
そんなわけでQuizKnockで短歌を紹介する記事を連載することになりました。よろしくお願いします。
短歌って何?
みなさんは「短歌」と聞くとどのような物を想像するでしょうか。「お年寄りの趣味じゃない?」「俳句と何が違うの?」みたいなイメージの人から、Twitterや本で見たことあるよという人まで、様々だと思います。
よく知らないよ、という人向けに、短歌のかんたんな定義を確認すると
5・7・5・7・7の5句31音を定型とする詩の一種
となります。シンプルですね。
「和歌」「俳句」「川柳」との違い
「短歌」と聞いたときに多いと思われる疑問が、この「○○とどう違うんですか?」というものです。
「短歌」と「和歌」
まず「短歌」と「和歌」とはどう違うのかというと、「短歌」はもともと「和歌」の一形式でした。
「和歌」はかなり昔の『万葉集』の頃からあった詩歌の形式で、5音と7音を中心としたリズムのものの総称です。「5・7・5・7・7」の「短歌」以外にも、長歌、旋頭歌、仏足石歌などいろんな形式がありました。
それが平安時代以降になると、「短歌」形式が圧倒的人気を誇ったため、徐々に「和歌」というとほとんど「短歌」をさすようになっていった、という流れです。
さらに明治に入り、正岡子規が短歌を近代文学の一ジャンルとしてとらえ直したことで、「和歌」はそれ以前のもの、つまり「近世までのスタイルに則った古典的な短歌」といった意味合いも持つようになります。
「俳句」「川柳」
俳句や川柳についても解説すると、
俳句は 5・7・5 季語があるものが多い
川柳は 5・7・5 季語が不要
という感じです。実は「季語のない俳句」というものもあって、この2つの違いは何なんだ、となるんですが、その辺は専門家でも意見が分かれるようです。
「連歌」
ちなみに、俳句と川柳の遠い先祖にあたる「連歌」というものもあります。
連歌とは、5・7・5の「発句」と7・7の脇句以下、長短句を交互に連ねていくという、和歌が発展してできたものです。しかし、今回はあまり関係ないので、なんとなくの理解で大丈夫です。
実際に見てみよう
あまり説明ばかりになっても授業みたいで退屈なので、短歌をいくつかポポポンと見てみましょう。ブームを起こしたことで有名な俵万智さんの短歌から。
さくらさくらさくら咲き初め咲き終りなにもなかったような公園
「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ
「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日
――俵万智『サラダ記念日』
3首引用してみました(ちなみに短歌を書くときは5・7・5・7・7の間にスペースは入れないのが普通です)。
意味が一読して伝わりやすい短歌だというのはよく言われますがどうでしょうか。確かにどういう状況なのかよくわかる、普遍的なよさのある短歌だなあという気がします。
爪を研いでいる人々
歌集(短歌の作品集のこと)『サラダ記念日』は1987年に出版されましたが、当然それ以前から、また、それ以降も、短歌の世界ではたくさんの人々が爪を研ぎ牙を磨いているわけです。東野圭吾以外にもミステリー作家がいっぱいいるのと同じことですね。
もちろん俵さんもその一人として、『サラダ記念日』から30年後、雑誌にこんな短歌を発表しています。
球場のビールはうましなんでもない日のはずだったサラダ記念日
――俵万智/『ユリイカ』2016年8月号
球場のビールがおいしい、と感じたのが7月6日だったのでしょうか。
「この味がいいね」と言われてから30年、俵さんは出産や東日本大震災などさまざまな経験を歌人として経てきたことが知られています。
サラダ記念日から30年、こんなことになるとは……という感慨の現れたおもしろい歌ですよね。
今後の記事ではそういったここ数十年で作られた短歌たちを主に紹介していくことになります。では試しにそういう「爪を研いで」そうな短歌もポポポンと見てみましょう。
わたし、踊る。わたし、配る。わたし、これからすべての質問にいいえで答える。
――斉藤斎藤『渡辺のわたし』
全員で死に方さがした日の えっ?えっ、えっ?打ち上げが、あったんですか?
――直泰「刑務所のみんなで歌ったふたつのJ-POP」/稀風社『墓には言葉はなにひとつ刻まれていなかった』
過去にだれともであわないでよ
若いきすしないでよ
今 産まれてきてよ
――今橋愛『O脚の膝』
たぶん「意味わかんない……」という人が大半だと思います。が、今後この連載を読んでいけば徐々にわかるようになってくるはずです。期待していてください。
第一回はこのあたりでお別れにします。
次回は「短歌を読むとはどういうことか」について書く予定です。お楽しみに。