こんにちは、伊東です。
皆さんは、栃木県には栃木市があるのをご存知でしょうか? 栃木県の県庁所在地は宇都宮市ですが、それとは別に栃木市があるのです。県と同じ名前の市なんて、覚えやすいし、県庁所在地にもってこいなはずですが、なぜか栃木市は県庁所在地ではありません。
▲栃木の名を冠する市があるぞ
私は栃木市出身で、子どもの頃から「なぜ栃木県の県庁所在地は栃木市ではなく宇都宮市なんだろう?」という疑問を持っていました。
この記事では、栃木県庁が宇都宮市になった経緯を紹介し、栃木市が県庁所在地の座を手に入れるチャンスについて考えていきます。がんばれ栃木市!
「県と同じ名前なのに」なケースは3県だけ
神奈川県(横浜市)や兵庫県(神戸市)など、県名と県庁所在地名が異なる県は数多くありますが、栃木市のように県名と同一の名称の市があるのに県庁所在地ではないケースは、
- 栃木県栃木市(県庁所在地は宇都宮市)
- 山梨県山梨市(県庁所在地は甲府市)
- 沖縄県沖縄市(県庁所在地は那覇市)
の3例のみです。
沖縄市の場合は、県名が先に決まり、1974年の合併の際に市名が定まりました。山梨県・山梨市の県名・市名の由来は、山梨市の全域や甲府市の一部などにまたがっていた山梨郡です。
一方、栃木市は、沖縄市や山梨市とは事情が異なっています。栃木県の県名の由来は、現在の栃木市にあたる栃木町にあり、かつては栃木町に栃木県の県庁が置かれていました。
なのになぜ、栃木県の県庁所在地は宇都宮市になったのでしょうか?
県庁所在地が宇都宮に動いたワケ
時代は明治に遡ります。1871年7月、廃藩置県により全国にあった藩が廃止され、県が設置されました。現・栃木県内にもいくつかの県が誕生し、同年のうちに栃木に県庁を置く栃木県と、宇都宮に県庁を置く宇都宮県の2県に統合されました。
1873年6月には、栃木県と宇都宮県が合併し、県名は栃木県に、県庁は栃木町に置かれました。ここまでは、県庁を置いた場所と県名は一致しており、栃木県の県名の由来が現在の栃木市にあるのもこのためです。
▲かつて県庁があった名残である県庁堀(栃木市)
一方、1882年になると宇都宮へ県庁を移転させようとする運動が活発になります。移転推進派と移転反対派の双方が内務省に陳情するという異例の事態に発展しますが、どちらの陳情も受け入れられず議論は膠着しました。
1883年10月、栃木県令(県の長官)に三島通庸が就任すると、事態は一気に進展します。就任から半年足らずの1884年1月、三島県令は宇都宮に県庁を移しました。
三島県令が宇都宮へ県庁を移転した理由は定かではありませんが、以下のような理由が挙げられます。
- 宇都宮が県の中央部に位置している
- 人口や商工業など町勢の面で宇都宮が栃木を上回っていた
- 栃木で自由民権運動が盛んであった
- 宇都宮側が巨額な移転費用を負担した
いずれにせよ、高度な政治的判断がなされた結果、県庁は宇都宮に移され、現在に至ります。
栃木市が県庁所在地になる可能性はあるのか?
近年では、県庁所在地の移転が実行されることはほとんどありません。しかし、奈良県議会では、県庁を橿原市周辺に移転することを求める決議案が2018年に可決されました。また、福島県でも、県庁を郡山市へ移転することを求める運動がたびたび起こっています。県庁所在地が移転するのは、非現実的なことではないといえそうです。
栃木市の地に再び県庁がやってくる可能性はあるのでしょうか? さまざまな観点で宇都宮市と栃木市を比較してみます。
人口はどうだ!
2020年10月1日に行われた国勢調査によると、宇都宮市の人口は518,757人、栃木市の人口は155,549人で、宇都宮市の圧勝です。
では、産業で勝負!
経済活動の状況を示す市内総生産は、宇都宮市が3兆179億円、栃木市が9491億円(いずれも2018年度)と、こちらも宇都宮市の圧勝です。ただし、1人あたり市内総生産はどちらも同じくらいで、人口の差が大きく効いているようです。
ならば交通の便で……!
宇都宮市の中心駅・宇都宮駅は東北新幹線の停車駅で、東京駅から最短で48分、上野駅から最短で42分となっています。
一方、栃木市の中心駅である栃木駅は、JR両毛線と東武日光線が通っており、東京駅から最短で60分、北千住駅から最短で56分で到着できます。
自動車でのアクセスは、東京からは県の南部に位置する栃木市の方が有利ですが、県内全体からのアクセスは県のほぼ中央部に位置する宇都宮市の方が有利です。
やはり、宇都宮市が圧倒的に強い
市の規模や県内各地からのアクセスでは、栃木市が宇都宮市に対抗するのは難しそうです。そもそも、奈良県や福島県の県庁移転構想は、県の中央部へ県庁を移転させ、県内格差を是正しようとすることが主な目的です。その観点で宇都宮市は県の中央部というベストポジションにあり、県の南部に位置する栃木市が、県庁所在地の座を手に入れる可能性はほとんどなさそうです。残念。
でも、栃木市はいいところ!
県庁所在地に再びなることはなさそうな栃木市ですが、さまざまな魅力がある市でもあります。
市の中心部を流れる巴波川沿いには歴史的な建造物が数多く残されており、「蔵の街」と呼ばれています。毎年3月から5月には1000匹以上の鯉のぼりが泳ぐ姿も見られます。
▲巴波川の鯉のぼり
「蔵の街」のほかにも、岩下の新生姜ミュージアムや3県境があります。ぜひ訪れてみてください!
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