『国立科学博物館研究報告』の今年の秋号に、ある論文が発表されました。
タイトルは『皇居におけるタヌキの食性の長期変動』。
筆頭筆者は明仁。ご存知の通り、天皇陛下のお名前です。
このニュース、結構話題になりましたし、知っていた人も多いのでは?(知らなかった人はニュースをもっと見ましょう)
興味が沸いたそこのあなた! 朗報です! 陛下の論文はネットで読めます!
全文英語ですけどね。
http://www.kahaku.go.jp/research/publication/zoology/v42_3.html
そこで登場、誰が呼んだかQuizKnock。
今回は、陛下の論文をザックリ解説していきます。
そもそも、天皇陛下が論文?
論文の話をする前に、前提として「天皇陛下は生物学者である」という事実を知っておきましょう。
専門はハゼ。現在までにハゼに関する論文を32本も発表なさっています。
その他、陛下がライフワークとなさっているのが、今回の話題である皇居でのタヌキ研究。
実は陛下は2008年にも「皇居におけるタヌキ」について論文を執筆なさっています。
(題名は『皇居におけるタヌキの食性とその季節変動』。こちらは和文で読めます。 http://ci.nii.ac.jp/naid/110007185436)
タヌキに関する論文は今回で2本目。合計で陛下は34本もの論文を執筆なさっていることになります。
今回の論文は、ざっくり言うと、どんな内容なの?
題名の通り、「皇居のタヌキの食性」つまり「皇居でタヌキが何を食べているか」についての調査です。
この研究のオリジナリティーは、調査に5年もの時間を費やしたこと。この論文は、2009年1月から2013年12月までの調査を元に書かれています。
東京のど真ん中、皇居にタヌキ?
います。1990年代半ばから定着しているようです。
生息数ですが、陛下の8年前の論文では、最小で2頭、最大で14.5頭と見積もられています。
タヌキが何を食べてるかって、どうやって調べるの?
ズバリ、「フン」を見るのです。
陛下はタヌキのフンを採取なさり、その中から未消化の植物のタネなどを見つけ出すことで、タヌキが何を食べているかを明らかになさったのです。
タヌキは排便する場所を決めている動物。「溜めフン場」と呼ばれる「トイレ」からフンを採取なさいました。
5年間に及ぶ調査で、調査回数261回、集めたフンの数164個。毎週日曜の午後2時、定期的に採集。集めたフンの中から植物などを探され、その種類をお調べになりました。
フンはもちろん強烈な臭いを発します。陛下はそれに耐えなさいました。逆に、5ヶ月に渡り全くフンが見つけられない、そんな苦難の時もございました。
それらを全て乗り越え、陛下は調査を完遂なさったのです。
……そして、フンの中からは95種の植物が見つかりました。また、そのうち8種が「皇居タヌキの主な食物資源」と判明しました。
それで、何が分かったの?
タヌキが季節ごとに食べ物を変えていることがわかりました。例えば、1月はムクノキ、2月はイイギリ……というように。また、栄養の不足する3~4月には、イチョウなどの胚乳や動物(昆虫など)を食べて栄養を補っていることが分かりました。
さらに、この1年間の季節サイクルは、5年間を通じてほぼ変わりませんでした。
ここから何が分かるでしょうか?
――「皇居の安定した食料供給が、タヌキの数を支えている」。
仮に、年により食物の量が変動するとどうなるでしょうか? 生きられるタヌキの数が増減しますから、タヌキの数は安定しなくなります。
そんなことはないのだ、というのがこの論文の結論です。つまり、皇居タヌキの個体数は安定しているはずです。
浮かび上がってきたのは、皇居の自然の安定感、そして豊かさでした。陛下にとっての憩いの場である皇居は、タヌキにとっても暮らしやすい場所だったのです。
【復習】