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\ 連載「クイズを味わう」 /

「クイズ」は、物知りな人が解いて答えるだけのもの? いやいや、問題に込められたメッセージや「たくらみ」を見つけるのも、クイズの楽しみ方のひとつ。

毎回1問のクイズを取り上げ、「いいクイズ」「面白いクイズ」の秘密をひもときます。毎週金曜日のお昼に更新予定です!

今回取り上げるクイズはこちら。

作家の原田マハは若き日に兄 原田宗典(むねのり)の講演会でこの作品を知り、当時は歴史ものに縁遠かったにもかかわらず数日で読破したという、主人公の幼馴染の少女「ななえ」は 連載開始と同じ1964年に生まれた熊谷奈苗(ななえ)さん――後の小説家 恩田陸の名前の由来になったといい、恩田が自身の山本周五郎賞の授賞式でこのエピソードを明かす粋な計らいを見せている、時代小説の大家 山本周五郎の小説で、下級武士の家から身を起こし 異例の出世を遂げていく三浦主水正(もんどのしょう)の孤独な生涯を描き、作者にとって最後の長編となったのは何?

A.『ながい坂』 

(クイズ大会「PERSON OF THE YEAR 2023」より)


……長っ! 多くの方がそう思ったのではないでしょうか。

▲ふりがなを除いても250文字に迫る問題文

今回取り上げるのは、クイズの中でも「長文クイズ」と呼ばれる問題のひとつです。ふだんテレビやYouTubeなどで見かけるクイズの問題文がだいたい数十字、長くても100字前後だと考えると、この文字数の多さは異様と言っていいくらいかもしれません。

長文クイズを作るのには、なかなか苦労します。扱う情報がニッチになりがちで、その調査や裏取りにとても時間がかかる。調べた情報をどんな順番で、どんな言葉でつないでいくか、文章の組み立てにも頭を悩ませます。もちろん答える側も、多くの情報を整理する必要があるので大変です。

実際、さまざまなジャンル・潮流があるクイズの世界の中で、長文クイズを楽しむ人はそれほど多いわけではありません。しかし、「長文」ならではの魅力もまた確かにあります。

「長文クイズ」の世界

長文クイズの問題文は、おおむね3つ以上の情報から成り立っています(それぞれの情報を、1つ目から順に「1フリ目」「2フリ目」「3フリ目」……と呼んだりします)。

「情報を3つ以上含む」こと自体は短い問題文のクイズでもありえますが、長文クイズならではのポイントは、一つひとつの情報をじっくり伝えられるということにあります。

たとえば今回の問題の1フリ目は人気小説家・原田マハにまつわるエピソードですが、

若き日の原田マハは数日で読破したという、

くらいに要点をまとめることもできます。もちろんこれでも情報としては伝わりますが、その背景に何があったかまでは伝わってこないのではないでしょうか。

原田マハと『ながい坂』という小説の出会いを説明するのに、これほど字数を贅沢に使うのは長文クイズだからこそできることです。

クイズでつくる「ストーリー性」

さて、長文クイズのなかでも、今回取り上げた問題のどこがよいのか。それは、「長文ならではのストーリー性」が存分に発揮されているところです。

問題文を冒頭から振り返ってみましょう。

作家の原田マハは若き日に兄 原田宗典(むねのり)の講演会でこの作品を知り、当時は歴史ものに縁遠かったにもかかわらず数日で読破したという、

1フリ目は前述のように、原田マハと『ながい坂』のエピソードです。兄の講演会が手に取るきっかけだったこと、歴史ものを読まない人にも数日で読破させるほどの引力があったこと……その一つひとつが語られることで、人気作家の若き日のできごとがひとつの物語として立ち上がってくる。

主人公の幼馴染の少女「ななえ」は 連載開始と同じ1964年に生まれた熊谷奈苗(ななえ)さん――後の小説家 恩田陸の名前の由来になったといい、恩田が自身の山本周五郎賞の授賞式でこのエピソードを明かす粋な計らいを見せている、時代小説の大家 山本周五郎の小説で、

2フリ目では、こちらも人気小説家・恩田陸の本名が、『ながい坂』に登場する少女「ななえ」から来ている、というエピソードが登場します。それだけでも十分に驚きがありますが、さらに恩田自身が「山本周五郎賞」の授賞式でこのエピソードを明かしたという巡り合わせまで添えられている。

下級武士の家から身を起こし 異例の出世を遂げていく三浦主水正(もんどのしょう)の孤独な生涯を描き、作者にとって最後の長編となったのは何?

そして最後の3フリ目では、作家・山本周五郎が、その生涯の最後に書き上げた長編だったという事実が示されます。「時代小説の大家」の集大成としての重みが込められているといっていいでしょう。

一つひとつの情報がそれぞれにドラマを持っているだけでなく、3つが重なることで、一人の作家の作品が、のちの世代の作家たちの人生に影響を与えていくという、まるでひとつの大河小説のようなスケールが1問のなかに立ち現れてくるのです。

長文クイズは、ただ文字数を増やせばいいというものでもありません。余計な情報や説明があると、聞いていて文字数以上に冗長に感じたり、早押しの場面ではノイズになってしまったりすることもあります。

この問題はここまで長い文章でありながら、ほとんどの言葉がきちんと役割を持っている。どの要素も『ながい坂』という作品の背景を伝えることに貢献していて、無駄が少ないと言えます。

「没入感」をつくる言葉選び

そこでもうひとつ触れたいのが言葉選びです。「粋な計らい」「時代小説の大家」といった表現は、ともすれば抒情的で、クイズに答える上では無駄な部分に映るかもしれません。しかしこの問題では、それぞれのフリが物語として展開されているからこそ、こうした言葉が読み手をその世界観に引き込む装置として機能しています。恩田陸のスピーチを素敵な小話として伝えたり、日本文学における山本周五郎の存在の大きさをさりげなく印象づけたり、といった具合に。

この問題の題材は時代小説の名作であり、文学にまつわるエピソードです。問題文自体も、どこか文学作品のような雰囲気を帯びています。題材にふさわしい語り口が選択されているかどうかも、長文クイズの質を左右する要素です(文学でなくてスポーツの名勝負を扱う問題だったら、アナウンサーの実況のような、臨場感のある言葉で書かれているほうが背景まで伝わりそうですよね)。

語り口が題材と噛み合ったとき、長文クイズならではの「没入感」が生まれ、解答者や読み手は問題文の世界に引き込まれていきます。

長文クイズの問題文は、クイズとしては非常に長いかもしれません。でも、ひとつの伝記やノンフィクションとして捉えたら、驚くほど短い。たった数百文字の、短くも充実したストーリーに浸りながら「答えは何だろう」と考え続ける、そんな体験は長文クイズならではのものです。

ここまで読んだあなたには、その魅力が十分に伝わっているのではないかと思います。興味を持った方は、ぜひ下のリンクから長文クイズの問題集を手に取って、あなたなりの「味わい方」を見つけてみてください。

(文・倉門怜央)

今回の問題が収録されている本

『PERSON OF THE YEAR 2023 公式記録集』BOOTHで販売中)


「クイズを味わう」は毎週金曜日のお昼に更新予定です。Xのハッシュタグ「#クイズを味わう」で感想をお寄せください。次回もお楽しみに!

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