こんにちは。山上です。
クイズ好きの私にとって、思い出の1問を選べというのは、普通の難問クイズより難題でした。クイズは同じ問題でも「どんな相手に出すのか」によって評価が変わるからです。
解答者として、出題者として。クイズ人生を振り返りつつ選んだのが、この1問です。
「熊」という漢字の音読みは何?
答えは「ユウ」です。
「そんなにすごい問題か?」と思った方もいるでしょう。正直、同じ問題を今の私に出されても、思い出の1問にはなっていないと思います。しかし、クイズは「どんな相手に出すのか」が重要。この問題は小学校高学年の頃の私に、父が出題した1問なのです。
私のクイズ好きは父譲りで、子供の頃はよくクイズを出してとせがんでいました。クイズは、父と私との楽しいコミュニケーションでした。
実は、この問題の前に私から、父が絶対に答えられないだろう問題を出していました。当然、父は答えられません。父は言いました。
「ええか、わかりそうでわからんくらいの問題を出すから面白いんや」
そして父が出題したのが、「熊」の音読みを問うクイズでした。
私はクイズ番組が大好きで、頻出の難読漢字の問題も好きでした。学校で47都道府県を習っていたので、「熊本」の「熊」という字も知っていました。そんな当時の私にとって、「くま」としか読めない漢字の音読みを問う問題は、まさに「わかりそうでわからない」クイズだったのです。
知りうるはずなのに知らないという悔しさが、不思議と面白い。漠然と感じていた魅力が言語化され、手品のタネ明かしに似た感動がありました。笑顔で悔しがる私に、父は正解を発表し、中華料理では熊の手のひら「熊掌(ゆうしょう)」を食べるという知識も教えてくれました。
この問題は、クイズ作家がよく作る、多くの人に向けた問題ではないかもしれません。同じ題材で今の私がクイズを作るとしたら、「熊掌」という食材に着目してこんな問題を考えます。
中華料理の珍味「ゆうしょう」とは、何という動物の掌(てのひら)のこと?
トリッキーですがこんなのもあります。
漢字の読み。 「熊手」は「くまで」と読みますが、「熊掌」は何と読む?
「ゆうしょう」という読み方が「優勝」に通じるところに目をつけると、こんな問題も作れます。
ゆうしょう、あっしょう、かいしょう。熊の手のひらは?
これらの問題に比べると、父のクイズはごくシンプルです。しかし、世界でただひとり、歴史上でただ一瞬、「あの瞬間の山上大喜」に出題するクイズとしては、まさに最高の1問でした。
クイズは、解く人のことを考えて作るものです。解く人の興味や知識は十人十色。互いの顔が見えないことも多いですが、出題者と解答者、「私」と「あなた」のコミュニケーションなのです。
「わかりそうでわからないくらいが面白い」を伝えようと、父が私のことを懸命に考えて出したクイズは、私の思い出の1問になりました。今でも、クイズを作るときに大切にしている言葉です。
さて、最後におさらいです。「私」からこれを読んでいる「あなた」へ1問。
過去の「思い出のクイズ」はこちら。