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こんにちは、村上です。

みなさんは、水を飲んだときなどに「ゴホッ」っとむせてしまった経験ありませんか?

▲むせると苦しいですよね……。

この “むせ” は誰にでも起こりうることなのですが、よく考えてみると不思議です。

飲み物や食べ物を飲み込むのは、生きるうえで欠かせない動作。それがたまにうまくいかないのはおかしい!

実は、人体は進化の過程で、むせやすい構造を持つようになりました。では、なぜそのような一見 “不利” にも思える仕組みが、結果として残ることになったのでしょうか?

今回は、 “むせる” という何気ない現象から、体の不思議に迫ります。

“むせる” とは

そもそもむせるとは、食べ物や飲み物、唾液などが誤って気道に入ろうとしたときに起こる防御反応のことです。

人間ののどには2つのルートが存在します。食べ物を口から胃へと送り込む食道と、鼻などから入った空気を肺へと送り込む気道です。

通常、食べ物を飲み込むときは、喉頭蓋こうとうがい(気管の入り口付近にある蓋)というフタが気道を閉じることで、食べ物が気道ではなく食道に正しく送られます。この動きは無意識的に行われており、嚥下反射えんげはんしゃと呼ばれています。

しかし、この切り替えのタイミングがずれたり、嚥下反射が弱まったりすると、食べ物や飲み物などが誤って気道に入ってしまうことも(誤嚥ごえん)。気道に異物が入ると、呼吸が妨げられ、場合によっては命に関わる危険もあります。そのため、体は異物を追い出そうと反射的に咳をして、むせるという反応が起こるのです。

▲喉頭蓋は気管を食べ物から守る

つまり、むせるという現象は、命を守るための大切な仕組みということ。しかし、なぜそんな危険な入り間違いが頻繁に起きてしまうのでしょうか?

のどの構造

人間は「平面交差」

危険な入り間違いが起こりやすい理由は、のどの構造にあります。

▲食べ物と空気が同じルートを通る

人間ののどには食道と気道の2つのルートが存在しています。それぞれ別のルートを進んでいくように思えますが、実は、のどの部分(咽頭部)では共通路を形成しているのです。こうした構造を平面交差と呼ぶことがあります。

食道と気道が平面交差をしている結果、本来は食道へ行くべき食べ物や飲み物が、誤って気道に入り込んでしまうということが起こり得るのです。

他の哺乳類は「立体交差」

一方、人間以外の哺乳類で、誤嚥が命に関わる問題となることは比較的少ないです。それは、彼らののどの構造は人間とは異なり、食道と気道で共通路を形成していないからです。

▲食べ物と空気が同じルートを通らない

犬の場合、図のように口から入った食べ物は気道の脇を通って食道に入っていきます。こうした構造を立体交差と呼ぶことがあります。

食道と気道それぞれがほとんど独立しているため、誤って異物が気道に入るリスクが低く、むせることもあまりないのです。

では、なぜ人間ののどだけが平面交差する危険な構造になってしまったのでしょうか?

人間だけの進化

人間ののどがむせやすい構造になった背景には、直立歩行への進化が深く関係しているといわれています

人類が直立して歩くようになると、頭部と頸部の位置関係が変化し、それに伴って喉頭の位置が徐々に下がっていきました

喉頭の位置が降下すると、喉頭蓋(気管の入り口付近にある蓋)と軟口蓋(鼻腔と口腔を隔てる部分)の距離が広がり、その間に咽頭腔と呼ばれる空間が拡大しました。このことにより、食道と気道が一時的に同じ空間を共有する構造になったのです。

このような構造の変化により、咽頭腔という広い共鳴空間が確保され、声や音をより豊かに響かせることが可能になりました。さらに、舌の精密な運動も加わることで、複雑な発音が可能となり、「言語」という高度なコミュニケーション手段が発達したと考えられています。

しかし、言葉を話す能力が発達した代償として、 “むせる” という現象が起こるようになってしまったのです。

むせるのを防ぐには?

人間ののどの構造上、完全にむせるのを防ぐことはできないですが、できれば苦しい思いはしたくないですよね。そこで、特に誤嚥に注意する必要がある現場で使われている、むせるリスクを減らす方法をご紹介します!

姿勢の工夫

  • 背筋を伸ばす
  • かかとをしっかり床につける

背中が丸くなっていると口周りの筋肉が動きづらくなってしまいます。背筋を伸ばすことでよく噛めるようにしましょう。また、足裏全体を床に接地させることで、姿勢が安定して、むせにくくなります。

食べ方の工夫

  • 一口量を多くし過ぎない
  • 口に入れたらよく噛む

一口量が多すぎると、飲み込める許容量を超えてしまう可能性があり、それが原因でむせてしまうこともあります。早く食事を済ませたいときなど、急いで食べてしまうこともあるかもしれませんが、飲み込みやすい形になるよう、よく噛んで食べることを意識しましょう。

まとめ

“むせ” やすさというのは、一見すると人体の欠陥のようにも思えます。ですが、言葉を話す力と引き換えに得た、いわば言葉とのトレードオフの結果であったのです。

人間が持つ、ちょっと不完全で、ちょっと特別な進化の形。その不思議さに、少しだけロマンを感じてみてください。

それでは最後にクイズです!

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この記事を書いた人

村上アリサ

関西で看護学を学んでいます。人体のしくみが好き。医療に関するテーマで、親しみやすく、楽しく学べるような記事を書いていきたいです!

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