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解説
正解は、『受胎告知』でした。
『受胎告知』は、天使がマリアに、マリアが神の子を宿したことを告げるという新約聖書の一場面を主題にした絵画です。キリストの磔刑や聖母子像と並んで、古くから多くの絵画の主題にされてきました。
『受胎告知』を描くには約束事が存在し、大きな翼を持つ大天使ガブリエル、赤い服に青いマント姿のマリア、そして受胎の瞬間を表す精霊の鳩が必ず描かれます。他にも、純潔の象徴である百合の花や、マリアがかつてエルサレムの神殿で祭司の衣服を織っていたという言い伝えから糸巻き棒や毛糸、さらに読書中に天使が訪れたという聖書の記述から開かれた書物などが描かれることもあります。
ヒント1:ティントレットの『受胎告知』
1枚目は16世紀にイタリアで活躍したティントレットによる『受胎告知』で、天使の突然の来訪に驚くマリアの姿が描かれています。椅子から転げ落ちそうなほど驚く様子は聖母のイメージとはかけ離れていますが、頭には後光が差しているのに加え、テーブルには糸巻き車、膝には書物が置かれており、彼女がマリアであることを示してます。
舞い降りてきたというより飛び込んできたような様子のガブリエルに加え、室内になだれ込む数多のキューピッド。外で作業をする夫のヨセフは気づくそぶりもありません。まさに青天の霹靂、マリアの驚きと恐怖にも近い感情が伝わってくるようです。
ティントレットは、デッサンに関してミケランジェロの影響を大きく受けたとされています。ミケランジェロは女性や老人ですら筋骨隆々に描いていたのですが、この『受胎告知』に描かれたガブリエルやキューピッドもなかなか筋肉が発達しており、ミケランジェロの影響が見て取れますね。
ヒント2:エル・グレコの『受胎告知』
2枚目は岡山県の大原美術館に収蔵されているエル・グレコの『受胎告知』です。ガブリエルから神の子を身籠ったと告げられて驚くマリアが描かれていますが、天が裂けたような背景によって、告知そのもの以上に神の子を宿したという奇跡が強調されています。
ガブリエルの足元には花瓶がありますが、ここに添えられているのは「燃える柴」。旧約聖書の登場人物・モーセが神の山で見たという、燃えているのに燃え尽きない不思議な柴のことで、マリアの純潔を表しています。
エル・グレコはヒント1で登場したティントレットの影響を受けた画家で、遺された作品の多くが宗教画です。ここで紹介した大原美術館のものの他にも、複数の『受胎告知』を描いています。
ヒント3:フラ・アンジェリコの『受胎告知』
3枚目は15世紀イタリアの画家で修道士でもあったフラ・アンジェリコによる『受胎告知』で、マリアが神の意志を受け入れた様子を描いています。
マリアとガブリエルの間に立つ柱には神の姿が彫られており、告知の瞬間を見守っているかのようです。画面の明るさや鮮やかさも相まって、先に紹介した2枚とは打って変わった、落ち着いた厳かな雰囲気が漂っています。
画面左端には天使と2人の人間が描かれていますが、これはエデンの園を追放されるアダムとイヴです。マリアがイエスを身籠ったのは、自らが第二のイヴになって、第二のアダムであるイエスとともに人類を救済し、原罪に打ち勝つためだという解釈があります。そのためアンジェリコは、禁断の果実を食した2人を、受胎告知の瞬間に描き込んだのです。
今回紹介した3枚の他にも、レオナルド・ダ・ヴィンチやラファエロなど、様々な画家が『受胎告知』を描いています。見比べてみると、また新たな発見があるかもしれませんよ?
最後までお読みいただきありがとうございました。ぜひ次回の「今日の一問・美術編」にも挑戦してくださいね!
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