「ハッハッハ、このお宝はいただいていくぞ」
「き、貴様~~~!!! 待て~~~!!!」
ダイヤモンドを盗み去って行く怪盗と、それを追いかける警官。マンガやアニメでありがちなこの光景ですが、セリフに少し違和感を覚えませんか?
そう、「貴様」という二人称です。日常生活では滅多に使うことがないのであまり気になりませんが、こうして漢字で書いてみると……、「貴い(たっとい)」に「様」って、相手のことめっちゃ尊敬してません?
ふつう相手を罵って使われるはずの「貴様」が、こんなに丁寧な字面なのは何故でしょうか? その理由は、室町時代にまでさかのぼります。
もともとは敬意を表していた
「貴様」という言葉が使われ始めた当初(室町時代末)は、実は文字通り相手への敬意を表す二人称だったとされています。
しかし、もともと武家の書簡で用いられていた「貴様」が庶民にも使われるようになると、そこに含まれる敬意は暴落。江戸時代後期にはもう、目下の者に対して使われるまでになってしまいました。
一説には、遊女が客に対して使い始めたことで一般化が進んだ、ともされています。
「お前」も同じ
ちなみに、今はあまり丁寧でないとされる「お前」も、もともとは敬語の一種でした。漢字で書くと「御前」。そう、静御前などの「御前(ごぜん)」と同じです。しかし「貴様」同様、江戸時代後期には同等~目下の相手に使う二人称として定着しました。
まとめ
言葉の意味というものは、時代につれて絶えず移ろいゆくもの。
もちろん現代で目上の人に「貴様」を使うのは避けるべきですが、このような点に注目して言葉を眺めてみるのも面白いものですね。
参考文献
- 日本国語大辞典「貴様」「御前」
- レファレンス協同サービス