話者が極めて少ない
アイヌ語は、話者が非常に少ない言語です。ユネスコが2009年に出版した"Atlas of the World’s Languages in Danger"によれば、アイヌ語は日本で最もレベルの高い「極めて深刻」な言語に指定されています。

アイヌ語の話者が少ないことに関しては、歴史的背景も関与しています。時は明治時代、政府は北海道に開拓使を遣わせ、開拓を推し進めました。これによってアイヌは山や川で自由に狩猟採集を行うことができなくなり、アイヌの生活は深刻な打撃を受けました。さらに、日本語教育や民族差別の深刻化によって、アイヌの人々がアイヌとして生きることが難しい社会が訪れるとともに、アイヌ語は人々の暮らしから急速に姿を消していきました(こちらも参照)。

その後、1997年のアイヌ文化振興法を皮切りに、アイヌ文化の再興の取り組みが動き出しました。アイヌ語を学べる教室が開かれたり、バスや鉄道のアナウンスにアイヌ語を取り入れたりと、アイヌ語を保存し盛り上げる取り組みは続けられています。しかし、アイヌ語話者は年々減少の一途をたどっており、劇的な改善は見られていません。
「アイヌ語に魅せられたから」思うこと
私自身は、アイヌ民族にルーツがあるわけでもなければ、北海道に縁の深い人間でもありません。いわば「門外漢」です。ただアイヌ語という言語に魅力を感じ、この素晴らしい言語が長く語り継がれてほしいと考えています。
アイヌ語に携わる人々は、アイヌ語で会話をこなせるごく少数の話者と、「挨拶程度のアイヌ語はできるが、ほとんど単語を知らない」多くの人々で成り立っています。後者の人々はまさに保存活動の賜物でしょう。次は、そうした人たちの中から、アイヌ語の教科書を開いて勉強を進める人を一人でも多く生み出すこと、またそれを支援することが大切ではないかと、個人的には思うのです。
前回お話しした通り、アイヌ語は活発な研究の成果として資料や記録が豊富に残されています。これは世界の危機言語を見渡しても稀なこと。ならば単に味わって楽しむだけでなく、盛り上げて次の世代に受け継ぐ責任があると感じています。
アイヌ語は誰にでもウェルカムな言語
アイヌ文化の再興に携わるならば、「アイヌの人々自身が」アイヌ文化をどう継承していきたいかを知る必要があります。
私はアイヌ語弁論大会への参加を通して、ありがたいことに少しずつアイヌ語について語り合える知人ができました。そんな出場者の方々と話して気づいたのは、「皆が皆、アイヌ語ペラペラなわけではない」ことです。アイヌ語を始めたきっかけも人それぞれで、「アイヌ語が楽しいから」「子どもの付き添いで始めた」など。ダンスや楽器を習い始めたのと大差なくて逆に安心。
それを聞いて、「アイヌ語が楽しい」という気持ちを大切にできる人は誰でもウェルカムなのかも! と嬉しくなったのを覚えています。自分にできることを手を挙げて旗を振るより、楽しむ姿をこうして発信することでアイヌ語を始める間口を広げていきたいと思ったのでした。
最後に
アイヌ文化は文字がない世界に紡がれてきた豊かな文化です。ひとたび触れれば、日本語では味わえないベクトルの魅力に出会えること間違いなし。あなたもアイヌ語の世界をもう少しだけ覗いてみませんか。最後に、アイヌ語に手軽に触れられるコンテンツを2つ紹介します。
- アイヌ語独特の発音は、北海道新聞の動画コンテンツがおすすめ。口の形が見えるのが嬉しいところです。
- アイヌ語に触れながら遊べるボードゲームやカードゲームは、千葉大学のコンテンツがおすすめ。オンラインでも遊べますよ!
あわよくば「アイヌ語が楽しいから手を付けてみようかな」という人が現れますように!
私は今後も積極的にアイヌ語を勉強し、そして謙虚に魅力を広め続けていく所存です。
以上、のせぴりかがお届けしました。またどこかでお会いしましょう。