昨年(2025年)末、静かに話題になったニュースがある。
森記念財団が毎年発表する「世界の都市総合力ランキング(Global Power City Index)」において、ニューヨークを抜いて東京が世界2位に躍り出たのだ。現在はシンガポール在住の筆者だが、昨年まで長く東京で暮らしていたこともあり、報告書を興味深く読んだ。
東京がニューヨークを抜いて初の2位 世界都市ランキング、観光面の充実が評価されるhttps://t.co/ZPwbpmBv5K
— 産経ニュース (@Sankei_news) December 17, 2025
東京が米ニューヨークを抜き初の2位に浮上した。円安を背景に訪日客が増え、観光面の充実が評価された。13年間2位だったニューヨークは物価高騰が足を引っ張った。1位は英ロンドンだった。
一見すると日本人、特に東京都民にとっては喜ばしいことに思える。ロンドンに次ぐ「世界で2番目の都市」という響きは、そう悪いものではないだろう。
しかし、この「ランクアップ」は必ずしも手放しで喜べる話とは限らない。というのも、東京が誰でも容易に移住・居住できる街ではなくなっていく可能性があるからだ。
なぜ東京が「2位」に?
本題に入る前に、「なぜ東京が2位になったのか」の背景を見ていこう。
物価高や円安が続く現在、「東京が世界の2番目?」と疑うような向きもあるかもしれない。ただ今回紹介している「世界の都市総合力ランキング」は、経済、研究・開発、文化・交流、居住、環境、交通・アクセスという6つの分野で都市を評価するもの。よくイメージされる「住みたい街ランキング」や「行ってみたい街ランキング」とは性質が異なる点にご注意いただきたい。

東京は6分野のうち「居住」で首位に立ったほか、「文化・交流」でも初の2位に浮上するなど、総合的な都市力の向上が認められた格好だ。
細かく見ていくと、「居住」については「働き方の柔軟性」や「飲食店の多さ」が順位上昇の理由として挙げられている。「物価水準の低さ」も、世界の多くの都市に比べれば(相対的に)スコア低下が抑えられているのが実情だ。
文化・交流分野では、「観光地の充実度」「ナイトライフ充実度」「外国人訪問者数」などのスコアが軒並み上昇。食事のおいしさ、治安の良さ、清潔な街並み──日本に暮らしていると当たり前にも思える要素だが、グローバルな視点で見れば確かな強みといえる(たとえば筆者が暮らすシンガポールで東京と同水準の食事をしようと思えば、日本の2倍の価格になることもざらにある)。

「経済」分野こそ「賃金水準の高さ」などが伸び悩んで順位を12位に下げたものの、今回の調査では総じて東京という都市の競争力の高さが示された。日本国内にいると実感は湧かないかもしれないが、グローバルな視点でみれば東京は世界屈指の街といって差し支えないのだ。
東京が目指す「世界に開かれた街」
ここからが問題の核心になるが、評価項目の中で特に注目すべきなのが「文化・交流」分野の中の「外国人訪問者数」あるいは「外国人居住者数」だ。
2024年に東京を訪れた外国人旅行者数は、過去最高を更新する約2500万人。コロナ禍前の2019年と比較すると、実に63.3%の増加となっている。外国人居住者数も70万人を超え、右肩上がり……こうした変化は、東京都が推進してきた「国際金融都市・東京」構想など、世界から人とお金が集まる街づくりによるところが大きい。

2023年開業の麻布台ヒルズといった都心の施設に、外資系のテナントが多く入居しているのが象徴的な例といえる。地域住民にも評判の施設かどうかはさておき、小池百合子都知事らの「海外に開かれた街をつくる」という目論見は実を結び始めているのだ。
グローバル「しかない」世界へ
「住みやすい街」として国際的に評価が高まれば、海外企業や投資、人の流れは東京にいっそう集まりやすくなる。そうした変化は、都心の家賃相場の更なる上昇、生活コストの増大といった形で、元から東京に暮らしてきた人々にも影響を及ぼす可能性がある。

なんだか現実味のない話かもしれないが、既に今年(2026年)の東京・新宿区では「『はたちのつどい』対象者の半数が外国人」というニュースも報じられた。他国ではもっと極端な事例もある:たとえばニューヨークでは、市民に占める外国出身者の割合が約4割に達している(該当者の子どもを合わせれば約6割)。
当然ながら外国人人口が多いこと自体が問題というわけではなく、都市の国際化が進めば、前提となるコミュニケーションのあり方も変わっていくということだ。
東京都新宿区の「はたちのつどい」 対象者の約半数が外国人https://t.co/TBj7Z1IMXy
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) January 12, 2026
日本を含め、これまでの社会にあったのは「世界に出たい人」だけが留学や海外旅行へ行く、という価値観だった。これからは少なくない人が外国籍の人々とともに暮らし、ともに働いていくことを求められる。
東京のような都市で、グローバルに生きることは「選択肢」のひとつではなく、社会の構成員として必須の条件となりつつあるのだ。
あなたはどう考える?
こうした予測は海外志向を持たない人にはシビアに映るかもしれないが、決して「今すぐ日本を出た方がいい」とか、「英語ができなければ大都市に住む権利はない」などと煽りたいわけではない。ここで提案したいのは、環境の変化を過小評価することなく、自分がどんな場所で役に立てるのかを考えておく、という姿勢だ。※1
たとえばスキーリゾートで有名な北海道のニセコや、岐阜県の白川郷などは外国人観光客を多く取り込み、(いわゆる「オーバーツーリズム」などの問題は山積しているにしろ)地元の財産を活かした立ち回りに成功している。コンピューターにたとえるなら「その土地ならではの魅力」というハードウェアの上に、国際社会で渡り合っていくためのマインド=ソフトを搭載した状態といえるだろう。

関わりがあるのは、何もビジネスパーソンだけではない。
学校に通っている人なら、きっと「〇〇中学校の……」「〇〇部に所属している……」といった自己紹介をしたことがあるだろう。あるいは会社員の方なら「〇〇社、〇〇部の……」と。
集団への帰属意識、仲間意識ももちろん大切だが、「あなた自身はどういう人なのか」「どんな強みがあるのか」と向き合うべき局面も、これからの社会では増えてくるはずだ。
「東京が世界2位の都市に」というニュースを見たとき、無邪気に喜ぶばかりでなく、その背後にある変化を見つめ、自分がどう振る舞うのかを考える。日頃のニュースもそんな視点で眺めてみれば、感じ方も少し変わってくるはずだ。
※1^
より極端な形だが、「ユニクロ」などを手がける(株)ファーストリテイリングの代表取締役会長兼社長、柳井正氏も同様の発言を残している。
柳井氏は、国際社会の中で日本人が存在感を示すには「日本の歴史・文化を利用する」「『自分(自社)は何者か』を把握する」ことが必要だと述べたほか、「日本人どうしのなれ合いをやめないと、外国人と一緒に仕事はできない」といった主張で波紋を呼んだ。
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