こんにちは、1758です。
金曜昼に連載中の「おすすめの一品」。QuizKnockライターが一押しのコンテンツを紹介するコーナーです。
映画やアニメ、音楽……と数ある娯楽の中で小説を取り上げることは割合すぐに決まったのですが、1つに絞るとなるとなかなか難しいもの。収容率150%といった感じで溢れかえっている家の本棚に目をやり、最初に「これだ!」と思ったのがこの一冊でした。
今回の「一品」は、米澤穂信『儚い羊たちの祝宴』です。
『氷菓』に始まる「古典部」シリーズなどライトな推理ものに定評のある米澤さんですが、本作は少し毒の効いた一冊。よく「暗黒ミステリ」と紹介されます。上流階級の令嬢たちによる怪しげな読書サークル「バベルの会」にまつわる5つの短編からなる作品です。
いずれの短編でも鍵となるのが「最後の一行」。実を言うと、どの作品で起こる事件も構図がわかりやすく、「犯人」も比較的早い段階で見当がつきます。それでもなお、背筋が凍るほど衝撃的で、同時に美しい幕引きが待ち受けているのです。
小説の世界で「ラストのどんでん返し」というと誇大広告ぎみのこともありますが、本作に限っては看板に偽りなし。たった一行に向かって物語が収束していく、見事なストーリー構成を味わえます。
いずれも秀逸な5作品の中から一番のおすすめを挙げるなら、4作目の「玉野五十鈴の誉れ」でしょうか。
主人公は高圧的な祖母のもとで暮らす娘・純香。新しい女中・玉野五十鈴との交流を通じて自由の喜びを覚え、やがて五十鈴とともに家を飛び出し進学して「バベルの会」の一員に。しかし親族の起こした事件が原因で、純香は祖母により幽閉されてしまい……といった筋書き。
次第に狂気にむしばまれていく純香の心情、そして玉野五十鈴という存在の不気味な影響力が丹念に描かれ、恐ろしいのに何度も読み返したくなる一編です。
こうして書いていくとかなりホラーテイストが強い印象を受けるかもしれませんが、過度に刺激的な描写は控えめ。何より「怖さ」以上に息もつかせぬ展開が魅力的で、ページをめくる手が止まりません。普段はホラーものが苦手という方も、挑戦してみる価値ありの一冊です。
気軽に楽しめる短編集ということもあり、重厚なストーリーながら読みやすさも抜群。1日1編ずつ読み進めるもよし、一気に5編読み切って雰囲気に浸るもよし。ページを閉じた直後、誰かと感想を語り合わずにはいられない、そんな作品です。
お近くの書店で黒い表紙を見つけたら、ぜひ手に取ってみてください。きっとあなたも、このダークな世界の虜になるはず。
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