こんにちは、まちょです。
今年(2024年)もノーベル賞が発表されましたね。研究をしている身にとっては、年に1回のお祭りみたいに楽しみなイベントです。
生理学・医学賞を受賞したのはAmbros先生、Ruvkun先生で、「microRNA(マイクロRNA)の発見とその転写後遺伝子制御における役割」でした。内容自体は既に教科書にも載っているようなもので、個人的には「むしろまだ受賞していなかったんだ」という感想です。
みなさんはmicroRNAをご存じですか? 今でこそ、私たちが生きるうえで不可欠であることがわかっていますが、発見された当初はそこまで重要視されていませんでした。では、なぜ科学者たちはmicroRNAの重要性に気づくことができたのでしょうか。今回はmicroRNAとは何か、その発見にあったロマンは何だったのか、わかりやすく解説していきます。
microRNAとは?
そもそもRNAとは?【セントラルドグマ】
microRNAを知るためには、そもそもRNAとは何なのかを知らなくてはなりません。
私たちの体の中には、生命の「設計図」の役割を果たすDNAという物質が存在しています。こちらは聞いたことのある方も多いかもしれませんね。この設計図を参考にタンパク質が生成されるため、私たちの細胞は正常に活動することができるのです。
ただ、DNAは大事な設計図ですので、細胞の奥に大切にしまっておかなければいけません。そこで登場するのがRNA。平たく言うと、その設計図から作り出されるコピーのことです。特にタンパク質生成のもとになる役割を持つRNAはmRNA(メッセンジャーRNA)と呼びます。
整理すると、①DNAの情報からmRNAが作られ(転写)、②mRNAの情報からタンパク質が作られます(翻訳)。この一方向の流れこそが遺伝子制御の基本であり、セントラルドグマと呼びます。
私たちの体のあらゆる細胞は同じDNAを持つにも関わらず、例えば筋肉では筋細胞、腸では腸細胞と姿を変え異なる役割を果たすのは、mRNAがそれぞれDNAの異なる部分をコピーし、それらが翻訳され、細胞ごとに異なるタンパク質群をもつからなのです。
「小さな働き者」microRNA
普通「RNA」からイメージされるのは、このように翻訳のもととなるmRNAですが、中にはノンコーディングRNA(非翻訳RNA)と呼ばれる、セントラルドグマに沿わないRNAも存在します。
そのうちのひとつがmicroRNAです。これは、mRNA同様DNAの情報をもとに生成されますが、その後は自身が翻訳されるわけではなく、mRNAにくっつくことによって翻訳に影響を与えます。つまり、作られるタンパク質の量を調節しているわけです。
microRNAの大きな特徴は、とにかく小さいことです。ひとつのmicroRNAで多くて数百を超えるmRNAを制御していますが、その短さゆえ設計図の容量をそれほど奪っていません。また、これだけ多くの遺伝子を調節しているにも関わらず見つかってこなかったのも、その小ささが一因だとされています。
当初は相手にされてなかった?
そんなmicroRNAですが、Ambros先生、Ruvkun先生が発表した当初、周囲の科学者の反応は決していいものではありませんでした。
彼らはもともと同じ研究チームで、線虫と呼ばれる体長1ミリほどの小さな生物を用いて研究していました。その後1993年、Ambros先生、Ruvkun先生がそれぞれの研究チームでそれまでのRNAとは違う異常に短いRNA断片がmRNAを制御することを突き止めました。
シンプルなメカニズムである一方、セントラルドグマからは考えにくいその珍しいメカニズムは、線虫特有のものだろうと、科学界からはそこまで注目されていませんでした。
そんな中、Ruvkun先生の研究チームが2000年に別のmicroRNAを発見したと発表し、しかもその遺伝子は線虫どころか動物界全体に存在していた(保存されていた)ことを明らかにしました。これを機に、たった数年間で一気に数百種類ものmicroRNAが見つかりました。
現在、ヒトでは2,000種類以上のmicroRNAが見つかっており、細胞や組織はmicroRNAなしでは正常に発達しないことが分かっています。
美しい発見
この発見はまさに、「小さな生き物の研究が大きな進歩に繋がった」ものです。また、大発見は往々にして、実にシンプルなメカニズムであることを改めて実感させてくれます。
常識を疑い、注目を浴びなくてもなお研究を続けた2人の研究者は、文句なしでノーベル賞に値するものだと思います。大発見の芽はどこに眠っているのか、本当に分からないものですね。
microRNAについて、少し理解が深まったでしょうか。復習にクイズを1問出題します!
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