解説
正解は『風神雷神図屏風』でした。
ヒント1:この絵の裏に模写が描かれていた
この作品は江戸時代後期の絵師である酒井抱一の代表作『夏秋草図屏風』です。裏面には俵屋宗達のオリジナルではなく、尾形光琳が模写した『風神雷神図屏風』が描かれていました。酒井家はかつて光琳をパトロンとして支援しており、その縁で光琳の『風神雷神図屏風』を知った抱一は、これにインスパイアされる形で『夏秋草図屏風』を描きました。
左側には風にあおられる秋草が、右側には雨に打たれる夏草が描かれていますが、これらはそれぞれ裏側に描かれた風神と雷神に対応しています。すなわち、風神の起こす風に吹かれる秋草と、雷神の起こす雷雨に濡れる夏草という、表裏で一つの作品を成しているのです。
現在この2作品は保存の観点から分離されていますが、どちらも東京国立博物館に所蔵されています。
▲上が光琳による模写で、下はそれをさらに抱一が模写したもの。色味や雲の表現に違いがみられる
ヒント2:東京2020オリンピック・パラリンピック記念貨幣のモチーフ
宗達の『風神雷神図屏風』は、2021年に行われた東京オリンピック・パラリンピックを記念する500円貨幣のデザインに、「日本を代表する芸術作品」として採用されました。
当初、ほかにも「富士山」「国立競技場」というふたつの候補が挙がっていたのですが、これらの3案から1つに絞るために、なんとツイッター(現在のX)の投票機能も使われました。6万を超える投票数の内約43%を獲得し、風神・雷神が採用されることになったのです。いかに日本人から愛される作品であるかが窺えますね。
▲(左)via Wikimedia Commons 財務省 (Ministry of Finance Japan), CC BY 4.0
(右)via Wikimedia Commons 財務省 (Ministry of Finance Japan), CC BY 4.0
また大会公式エンブレムの最終候補の中にも、風神雷神をモチーフにしたものがありました。風神・雷神の姿をゴールテープを切る選手に、雷神の太鼓を花火に、風神の風袋を虹に重ね、平和や多様性、調和への思いが込められたデザインになっています。
【New!】 東京オリンピック 新 #エンブレム 、4候補を発表(画像)https://t.co/3ZqG7RO2Zn pic.twitter.com/zy5zdM1Ojv
— ハフポスト日本版 / 会話を生み出す国際メディア (@HuffPostJapan) April 8, 2016
▲右から2列目の二つが風神雷神をモチーフにしている
ヒント3:「琳派の祖」俵屋宗達の最高傑作
俵屋宗達は17世紀初頭に活躍した絵師。生没年をはじめとして、そのプロフィールの多くが謎に包まれています。彼は中世の大和絵を独自の感覚で復興させ、金箔・銀箔を用いた金銀泥絵や、「たらし込み」の技法を用いた水墨画など、様々な様式で活躍しました。この「たらし込み」は『風神雷神図屏風』の雨雲の表現にも応用されています。
琳派とは江戸時代に栄えた装飾画の流派で、上述の尾形光琳が大成させたことからその名がつけられました。幕府の御用絵師だった狩野派などとは異なり、世襲制度や明確な師弟関係が無いのが特徴として挙げられます。このため、光琳の直接の師匠ではないながら、その作風に大きな影響を与えた宗達は、「琳派の祖」と称されているのです。
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