では、富士山に自然的価値はないの?
富士山は文化遺産だから自然的価値がないのかというと、決してそうではありません。
元々は自然遺産の候補地だった
元々富士山は自然遺産への登録を目指しており、2003年に環境省・林野庁が行った「世界自然遺産候補地に関する検討会」では、19の候補地の1つに選ばれていました。しかし、自然保護上の課題が多いことなどを理由に、優先的に推薦を行う最終候補地の3か所には選ばれませんでした。
検討会では、富士山を含む残りの16候補地も、将来的に新たな情報が得られ、世界遺産の登録基準を満たす可能性が出てきた場合には自然遺産として推薦を行う可能性があるとされていました。
しかし、「富士山が世界自然遺産候補地から落選」とメディアで報道されたことなどから、自然遺産を諦めて、文化遺産としての推薦を行う動きが始まったのです。
富士山の文化的価値の背景には自然がある
そもそも、富士山への信仰や富士山をモチーフとした絵画は、噴火に対する畏敬の念や地形など、富士山の地学的・生物学的自然があってこそのものです。そういった意味で、富士山の文化的価値は自然を背景として生まれたものといえます。
また、世界遺産の登録基準自体が、文化遺産の基準と自然遺産の基準で明確に分けられており、文化と自然のつながりを評価しきれていないという課題もあります。
複合遺産ではダメなの?
先ほど、「文化遺産と自然遺産の登録基準がそれぞれ1つ以上認められると複合遺産となる」と述べました。それなら富士山はどうして複合遺産として登録されなかったのか、と思った方もいるのではないでしょうか。
例えば、美しい山として国内外から評価を受けている富士山なので、「登録基準(vii):自然美や景観美、独特な自然現象を示す遺産」などは適している気がします。
実際に、文化遺産に登録される過程で登録基準(vii)も適用してもいいのではないかという声もあったといわれています。
しかし、自然遺産の基準の適用も目指すとなると、環境省・林野庁との連携も必要になります。そのため、さらに登録が先延ばしになってしまうのではないかという考えもあり、文化遺産の基準のみで登録されることになりました。
逆さ富士
世界遺産としての価値≠その遺産の価値の全て
富士山は文化遺産の登録基準である(iii)(vi)を満たしているため、文化遺産として登録されています。しかしそれらの文化的価値は富士山の自然の上に成り立っており、富士山に自然的価値がないというわけではありません。
自然的な価値もあるのに文化遺産としてしか登録せず、結果的に自然的価値を無視する形になっているのは人間のエゴという感じもしますよね。
世界遺産で認められている価値は、あくまで世界遺産委員会が認めた価値であり、必ずしもその遺産の価値の全容を表しているわけではありません。これから世界遺産を見る際は、登録された基準だけでなく、それ以外の部分にも目を向けてみると、今までとは違った見方ができるかもしれませんね。