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答え・解説
正解は、ユピテル(ゼウス)でした。
ユピテル(Jupiter)はローマ神話における最高神です。その名は「父なるディエウス」を意味する“Dieu pater”から来ており、ギリシア神話における最高神ゼウスと同一視されます。
ヒント1:ブーシェ作『ユピテルとカリスト』
『ユピテルとカリスト』は古代ローマの詩人オウィディウスの『変身譚』をもとに描かれた絵です。左の女性はニンフのカリストで、右の女性はカリストの主人である、狩猟と月の女神ディアナ(ギリシア神話のアルテミス)です。一見すると女神と妖精が戯れているだけの場面に見えますが……。
ディアナの後ろをよく見ると、翼を広げた鷲が描かれています。実はこの鷲こそユピテルの象徴であり、ディアナに化けたユピテルがカリストを自分のものにしようと狙っている場面を描いたものだとわかるのです。
作者のフランソワ・ブーシェは、ロココ美術(18世紀に流行した軽快で優美な装飾を特徴とする形式)を代表するフランスの画家です。『ユピテルとカリスト』が制作された前後から、国王ルイ15世の愛人だったポンパドゥール夫人の庇護のもと活躍しました。ユピテルの企みを描いた恐ろしい場面でも、ブーシェの手にかかればこれほど上品かつ官能的な画面に仕上がるのです。
ヒント2:コレッジョ作『ガニュメデス』
ガニュメデスはギリシア・ローマ神話に登場する羊飼いの少年で、みずがめ座や木星の衛星のひとつであるガニメデの由来になった事でも有名です。『ガニュメデス』では、美少年だった彼に惚れ込んだユピテルが、鷲の姿に変身してガニュメデスを誘拐する場面が描かれています。鷲は上述のとおりユピテルの象徴であり、画面下では牧羊犬らしき犬が吠え立てています。
縦が横の約2.3倍という縦長の画面によって、天界へと高く飛び去るユピテルの様子が強調されています。加えてガニュメデスの衣服や背景の色鮮やかさは、黒々とした鷲の姿を際立たせており、ガニュメデスの不安や絶望が伝わってくるようです。
作者はルネサンス期に活躍したイタリアの画家コレッジョです。『ガニュメデス』は連作『ユピテルの愛の物語』のひとつとして制作され、イタリアにあるテ宮殿の「オウィディウスの間」に飾られていたといわれています。『ユピテルの愛の物語』は、他に『ユピテルとイオ』『レダと白鳥』『ダナエ』といった作品からなります。
ヒント3:スミルナのユピテル
最後のヒントはルーヴル美術館に所蔵されているユピテル像です。2世紀ごろのローマ帝国で制作され、1680年にトルコのスミルナ(現在のイズミル)で発見されました。
右手に大きく振り上げているのはユピテルの武器とされる雷霆です。神話では、1つの目を持つ巨人であるキュクロプスたちが、自身を助けてくれたゼウスのために作って与えたものとされています。鷲と同様にユピテルを象徴するアイテムのひとつです。
実はこのユピテル像、発見当時は右腕や足などが欠けていたため、ルイ14世のコレクションに加えられる際に修復されました。すなわち雷霆は後世に作られたものなので、元々ユピテル像ではなかった可能性があるのです! ルーヴル美術館のサイトでは、この像が元々は医術の神アスクレピオスであった可能性も示唆されています。
最後までお読みいただきありがとうございました。ぜひ次回の「今日の一問・美術編」にも挑戦してくださいね!
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