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「それ勉強して何になるの?」にはどう答える?

――数学の研究もそうですが、すぐに生活の何かに応用できるというわけではない、基礎的な分野の学問って「それ勉強して何になるの?」と言われやすいと思うんですよね。基礎研究を極めることの意義ってどんなところにあると思いますか?

鶴崎 そうですね、これは僕の意見というよりは、よく言われる意見なんですけど、基礎研究は「魚の網を張る」ということなんですよね。

――魚の網を張る?

鶴崎 魚を捕まえるのは網の一部だけど、網は全部ないと意味がないということです。実際に魚が1匹引っかかる網の長さって10cmくらいであっても、10cmの網では魚は捕らえられないわけですよね。

大きな2mとか3mとかの網があって、そこにたまたま魚が来るから捕らえられる。そういうところが基礎研究の意義を端的に表しているかなと思っていて。

――なるほど、もともと大きな網がないと、小さな魚もつかまえられないと。

鶴崎 例えば、「あ、そこに魚がいる、じゃあ捕ろう」って、すくって捕るのは応用的な研究のやり方だと思うんですよね。それは非常に明確な問題に対して、それを頑張って解決するということです。

でも海で「よくわかんないけどとりあえずマグロが欲しいなぁ〜」と言って網を引くやり方って、何が来るかわかんないですよね。小魚が来るかもしれないし、超高級マグロが引っかかるかもしれない

▲身振りを交えて語る鶴崎氏

鶴崎 基礎研究って、大きな網を張って、超高級マグロのような魚を捕らえておいしくいただく準備をするということなんですよね。人類が数学という能力を持って、とんでもない歴史的な新発見をするための準備があるということ。

――今目の前にいる魚ではなく、未知の魚に出会える可能性もあるわけですね。

鶴崎 QuizKnockの動画でRSA暗号の企画がありましたけど、RSA暗号において重要な定理として「フェルマーの小定理」というのがあるんです。

フェルマーって何百年も前の数学者ですけど、フェルマーの小定理ができたときには、「整数論の綺麗だけどようわからん定理」と思われていたんじゃないかと思うんですよ。

――綺麗だけどようわからん定理!(笑)

鶴崎 でも後に「暗号にめちゃくちゃ使えるじゃん!」と思った人がいて、今も実際に使われて暗号技術として重要な役割を果たしています。

▲RSA暗号に挑戦する鶴崎氏 via サマーウォーズの暗号、ガチで解けるかやってみた【RSA暗号】

――RSA暗号はインターネットでも一般的に使われている技術ですもんね。

鶴崎 数学って「何やってんのこれ」と思われがちなものも、思ってもないところで役に立つという例はいくらでもあって。

そう思ったときに、誰も整数について興味がなかったらフェルマーの小定理は生まれてないし、フェルマーの小定理がなかったらRSA暗号も生まれてなかっただろうし。そういう「網」が用意されていなかったら、暗号技術という「魚」は引っかからなかったわけですよね。

そんなところがやっぱり基礎研究の意義だなと思います。まぁこれは非常によくいわれる話なんですけどね。全然オリジナルではないんですけども、その通りだなと思います。

「役に立たないってめちゃめちゃ思ってますよ」

――ちなみに、鶴崎さん自身も「これを研究して何の意味があるの」みたいに思ったことは……。

鶴崎 めちゃめちゃ思ってますよ

――え?

鶴崎 自分でも思ってますよ

▲「役に立たないなって思ってますよ」!?

――そうなんですか!?(笑)

鶴崎 役に立たないなぁって(笑)。だって僕の研究ってまず物理の役に立つんですけど、宇宙の素粒子についてわかったらどうなるのか知らないですし。こんなこと言ったら物理学者の人には怒られちゃいそうですけど。「それ使える機会今なくない?」「僕の生活には役に立たんやろ」って思ってますいつも。

――そんなにバッサリと(笑)。でも、先ほどの基礎研究の話のように、「生活の役に立つ」ということばかり重視していると鶴崎さんの研究は進まないということですよね。

鶴崎 まぁそうですね、「明日勝ちたい数学」をやりたいんだったら、僕が今研究している表現論という分野は全くおすすめではないですね。

――明日勝ちたい数学?

鶴崎 この表現は正しくないかもしれないけど、「明日すぐに役に立つ数学」って感じですかね。そういうことが知りたいのであれば、金融とかITとかに即使えるような数学を勉強するのがいいかなと思います。もちろん、未来のためにやる研究もありますが、やっぱり表現論は「明日勝つ数学」ではないんです(笑)。

――なるほど。研究が「すぐに役に立たないかも」というところに葛藤はないですか?

鶴崎 さっきの基礎研究の話もそうですが、もともと数学というのは千年後のためにやっているという意識があります。それに今は数学を研究することに社会が価値を見出してくれているじゃないですか。役に立つか立たないかに限らず、数学者という職業が認められている社会ではあるので、それがあれば十分かなと思っていて。

僕は数学が楽しいからやってる楽しいからやってる以外に理由があんまりないんです。楽しいからやってる、それでいいじゃないかと。「いつか役に立つかもしれんから、楽しくて役に立つ可能性があるならええやん」みたいな、そんな感じですね。「何も役に立たないことやってる数学者はゴミ」みたいに思われる社会だったら悲しいことですけどね。

次ページ:ズバリ、鶴崎さんにとって「数学」とは?

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この記事を書いた人

野口 みな子

QuizKnock編集部で記事の編集をしながら、記事も書きます。記事を通して「知る楽しさ」の入り口を広げていきたいです。インターネットや動物、ポップカルチャーが大好き。大学時代は宇宙物理学を専攻していましたが、星座に詳しくないのが悩みです。名古屋大学の大学院理学研究科卒。

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