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映画の見所:窪塚洋介演じる「ユダ」と遠藤周作

映画『沈黙』の見所ですが、実にたくさんあります。

印象に残りやすいシーンとしては、幕府による切支丹への拷問・処刑のシーンでしょうか。とても凄絶なシーンになっていて、見ていた人々が息を呑む音が聞こえてくるほどです。

しかし、今回僕が見所として一番に挙げたいのは、窪塚洋介演じる「キチジロー」というキャラクターです。このキャラクターが、映画全体にわたって非常に大きな役割を果たしているように僕は思いました。

キチジローは、日本にやってくる二人の宣教師を、日本のキリスト教信者が隠れ住む土地への案内を務めることになります。

彼自身もキリスト教を信仰していますが、お上に捕らえられたときに信仰を棄てたフリをすることで処刑を免れた、という過去があります(同様にキリスト教を信仰していた彼の家族は、信仰を棄てられず彼の目の前で処刑されました)。

そんなキチジローは、当初、酔っ払いでうだつのあがらない、どうしようもない人間として基本的には描かれています。

彼は、都合のいいときだけキリスト教を信じているといい、それをお上に咎(とが)められるとあっさりと信仰を放棄する。そのくせ何度も何度も、宣教師に罪を告白して神の名の下に赦してもらおうとします

全体的にシリアスな展開、重い雰囲気のなかで進むこの映画に、このキチジロー演じる窪塚洋介のどこかコミカルな演技がメリハリを生み出す役割をしています。

そのおかげで、162分ずっと張りつめたままになることなく、バランスのいい映画になっているのですが、このキチジローの重要さはそれだけにとどまりません。

このキチジローというキャラクターの存在自体が、遠藤周作の考えていた「日本とキリスト教」という問題をよく表すものになっているのです。

キチジローは、神への忠誠という点で宣教師たちからすればかなり異質な信者です。彼が信仰している神は、宣教師たちが心のなかで耳を傾ける〈内なる神〉というより、宣教師たちのような姿をとって自分の外側にいて、都合よく物事をまとめるための神です。

そんなキチジローはこの『沈黙』という作品のなかで、イエス・キリストを銀貨30枚で売り飛ばし、彼を裏切った弟子のユダに重ねられています。

日本人としてキリスト教と都合のいい付き合いをし、信仰を棄てたフリまでしてみせるキチジローが、この「裏切り者ユダ」に重ねられるのは当然かもしれません。

しかし、キリスト教と日本人の関係を表現したこのキチジローが物語のなかでユダと重ねられていることには、より深い意味があるのです。

原作者の遠藤周作は、母の影響でキリスト教信者となりましたが、自分とキリスト教との関係に葛藤を抱え、「日本とキリスト教」というテーマに自己を重ねてずっと描いてきました。この『沈黙』のほかにも、『死海のほとり』などでこのテーマを真正面に扱っています。

そんな遠藤は、或る対談のなかでユダについて次のように述べています。

[…]弟子たちの中で、イエスの真意を一番理解したのはユダだと私は思うわけです。それに、彼がそれほど知っていた人を売ったときの胸中というのは、銀三十枚というお金に非常によく出ているわけですね。それが金百枚だったら、単純な裏切り者として考えられますけど、たった銀三十枚でしょう。銀三十枚で売れる人ではないということはユダが一番よく知っていたと思うんです。だから三十枚というのは、彼が自己を売った金で、それを彼もよく知っていた。この銀三十枚にはものすごくリアリティがあるんです。
それに、イエスの生前に弟子で死んだのはユダだけでしょう。しかも憎まれながら死んだのもユダだけですね。だから、ユダにイエスとのある相似関係をぼくは持った。それによってイエスはユダの同伴者になることができたという考えを持つわけで、この相似関係によって、当然ユダは救われるという考えを持っているわけです。

遠藤周作はこのように、ユダを単なる裏切り者としてではなく、かえってキリストの最良の理解者であると捉えていました。

そんなユダと、キリスト教と日本の関係を反映したキャラクターであるキチジローが重ねられているところに、まだまだ考えるべきことがたくさんあるな、という感想をぼくは持ちました。

実際、この『沈黙』を観てみると、キチジローが最初に出てきたときと最後に出てきたときとでは大きな違いがあります。ぜひ、劇場で確かめてみてください。

以上が、今回の映画『沈黙』についての紹介でした。実に素晴らしい映画だと思いましたし、いままで自分が「キリスト教」についてよくわからないままでいたことがいろいろとはっきりとして気がしました(もちろん、この映画で描かれるキリスト教の在り方が正統なものだということではありませんが)。

まあ、あまりお堅く考えずに、とりあえずパッと観てみるのも手だと思います。世の中に対する視野を広げてくれる映画になっていますから。あと、普通に面白いですよ!

今回はクイズはなしです(笑)。しばらくこのスタイルでいってみようかなと。 この記事が参考になったら、ぜひシェアをお願いします。

サムネイル画像 Via http://chinmoku.jp/

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一等兵

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